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DATE/ 2024.08.28

前より量が減ってる?「ステルス値上げ」とは

 価格は変わらないのに、商品の中身が減っている、小さくなっている……そんな声をよく耳にするようになりました。特に食品に多く、昔からあるロングセラー商品ならなおさら、そんな風に感じる人も多いでしょう。

 消費者が気づかない程度に商品のサイズや量を減らし、価格は据え置く―――量が減った分、商品の単価が上がること、“実質値上げ”することを、通称「ステルス値上げ」(経済用語では「シュリンクフレーション」)といいます。昨今はこの「ステルス値上げ」がより顕著になっているようで、SNSではたびたび話題に上がっているうえ、消費者庁もこの実態についてモニター調査を行っているほどです。

 その消費者庁の調査(2018年7月)によると「3年前と比較して実質値上げが増えたと感じる」と回答した人は82.2%、「日常的に買っている商品について、実質値上げが原因で買う商品を変えた(または買うのをやめた)ことがある」と回答した人は24.8%となったそう。かなりの人がステルス値上げについて把握しているようです。

 では、実際どのような商品が「ステルス値上げ」されているのでしょうか。また「ステルス値上げ」される理由とは何でしょうか。調べてみました。

「ステルス値上げ」されている商品

「ステルス値上げ」されている商品にはさまざまなものがあります。その代表といえるものがお菓子類です。板チョコのサイズが一回り小さくなったり、ビスケットが薄くなったり、せんべいの枚数が減っていたり……と、明らかに「昔より減った」という悲痛な声がSNS上で飛び交っています。

 特に既存の人気商品を複数詰めたファミリーパック(大袋)はステルス値上げされていることが多いようで、「昔は12個入りだったのにいつのまにか10個入りになっている」「袋を開けたら中身が想像以上にスカスカだった」など、以前の商品と比較した画像などが頻繁に投稿されています。

 自分へのごほうびや癒やしのために食べるものが「ステルス値上げ」されていると分かると、なんだか割を食ったようで、やるせない気持ちになりますよね……。

 ほかにもジュースなどの飲料、ジャムなどの調味料、食用油、ハムやウインナー、パン、かつおぶし、カレールウ、インスタント麺といった日々の調理に便利な加工食品、牛乳やマーガリン、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、衣料用洗剤やシャンプーなどの日用品なども「ステルス値上げ」されているという報告も見られます。

 あなたが普段から利用しているものも、知らないうちに「ステルス値上げ」されているかもしれません。

企業が「ステルス値上げ」をするワケ

 なぜこんなにも多くの商品が「ステルス値上げ」されているのでしょうか。

「ステルス値上げ」は、その名の通りこっそり行われるものなので、各企業の具体的な理由ははっきりとは分かりませんが、主たる要因は“原材料費の高騰”といわれています。

 現状、多くのモノを海外からの輸入に頼っている日本では、世界経済の動向や輸入コストが物の値段を左右します。特に2013年からの金融緩和によって大幅に円安となった影響は大きく、これにより原材料費の原価が大幅に上がったのです。

 さらに昨今の感染症の流行(ステイホーム)による物流の増加、中国を始めとする世界経済の活性化、それに伴う物価の上昇などを受けてエネルギー(原油など)価格が上がり、輸送コストも上昇し続けているのです。

 しかし、こうしたコストがいくら上がったところで、企業としては消費者心理を考えるとあからさまな値上げはしにくいものです。値上げをすれば、競合相手にシェアを奪われる可能性もあり、顧客離れが加速するかもしれません。そのため、値段は据え置き量を抑える「ステルス値上げ」が各所で横行するようになってしまったのです。

納得いかない値上げ理由で大炎上した例も

 もはや「ステルス値上げ」では限界が来たのか、昨今は企業が正式に値上げを発表することも増えてきました。消費者側からしても、値上げ理由を正直に述べてもらったほうが企業の誠実さが伝わりますし、「仕方ないか……」と諦めもつきますよね。値上げに踏み切るにあたり、「もう自社努力ではどうにもならない」と会社の窮状を正直に述べたことが消費者の心を打ち、逆に商品の売上が伸びたという例も少なからずあります。

 しかし、それはあくまでも、値上げの理由が納得いくものであればの話。伝え方次第では、企業のイメージダウンにもつながりかねません。

 たとえば商品の量やサイズが減ったことについて、企業の公式発表で実際にあった例では、以下などの文言が上がっていました。

“より手軽に食べていただくため”(菓子メーカー)
“フレッシュな味わいを最後まで楽しんでほしいから”(調味料メーカー)
“(商品の重さによる)手首への負担を減らすため”(飲料メーカー)
“少量が欲しいという消費者のニーズに応えるため”(食品メーカー)

 これが「値上げを消費者のせいにしている」「こじつけだ」「押しつけがましい」と不快感を抱かせ、大炎上する事態となってしまったことも……。

 もちろん企業側としてはその通りの理由なのかもしれませんが、これまでの「ステルス値上げ」の横行が、消費者のメーカーへの根深い不信感の元になっていると言っても過言ではないでしょう。

 原材料費やエネルギー価格の高騰は今後も続き、あらゆるモノの値段が上がっていくことが見込まれます。少しでも節約するためには、値段よりも単価を見て商品を選ぶか、本当に必要なものだけを買うというクセをつけていったほうがよさそうです。

<参考サイト>
・ステルス値上げ!? ~“安いニッポン”の現実~(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211210/k10013382711000.html
・〈なぜ今“値上げラッシュ”が起きているのか〉給料の上がらない日本への“処方箋”(文春オンライン)
https://bunshun.jp/articles/-/51454
・COLUMN1 実質値上げ(ステルス値上げ)に関する消費者の意識(物価モニター調査結果より)(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2019/white_paper_column_01.html
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