社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
神社の狛犬は「犬」じゃなかった?
神社に鎮座する狛犬の像。その名はあまりに有名ですが、どうしてそこにあるのか、その起源は何なのかを、詳しく知る人は多くないでしょう。そもそも狛「犬」という名前ではありますが犬ではなく、架空の生き物とされています。
狛犬とは、いったいどのような存在なのでしょうか。
正体については諸説ありますが、麒麟(きりん)や獏(ばく)のような架空の生き物、いわゆる「霊獣」のひとつだとされます。
「犬」という字が使われますが、見た目はたてがみを持った雄々しい姿で、犬というよりライオンのようです。これは、狛犬はもともと「獅子」が起源だったことに由来しています。
やがてライオンの存在は東へと伝えられ、「獅子」として古代インドや中国の伝説に現れるようになりました。仏教では獅子は仏国土の守護神となり、釈迦が説法する場を「獅子座」と呼ぶなど、重要な立ち位置を占めるようになります。
こうして中国から朝鮮半島、そして日本へと、仏教を始めとする大陸の文化が伝えられると同時に、獅子もまた、日本にやってきました。この時に獅子は仏の守護獣で、二体一対で置かれるものだと伝わったようです。
「狛」の字が当てられたのは、「狛」が朝鮮半島を含めた中国周辺の地(外の世界)を表すため、または「狛=神獣」の意味だからという説があります。
ただ「犬」の字が当てられてはいるとはいえ、この時伝えられたのは犬ではなく、あくまで架空の生き物である「獅子」です。その姿も、現代の狛犬とは大きく異なっていました。
ではなぜ「犬」と呼ばれたかというと、天皇の警護役が犬の鳴き声をまねて警備していたからという説、古代日本では下等なもの、取るに足らないもののことを「犬」と呼び習わしていたため、獅子を「正体不明の謎の生き物」と解釈したのだという説があります。いずれにせよ、はっきりとは分かっていません。
実は日本に伝来した当初の獅子像の多くは、二体とも大きく口を開け、向き合うように造られた、左右対称(シンメトリー)の姿でした。しかし自然そのものの姿を尊重した古代の日本人は、人が作為的に生み出す「シンメトリー」よりも「アシンメトリー(左右非対称)」をより美しいと感じていました。そのため、まったく同じ獅子を並べるのをよしとせず、新たに“別の生き物”をつくり、獅子と組ませたのです。
二体のうちの片方は、これまでと同じ「獅子」で、大きく口を開けた姿。“阿吽の呼吸”でいう「阿形(あぎょう)」としました。そしてもう片方に、新たに生み出した“オリジナルの霊獣”を置き、獅子と一対としたのです。それは獅子のようでありながら頭に角が生えており、口をぐっと引き締める「吽形(うんぎょう)」の姿にかたどられました。この“オリジナルの霊獣”のほうを「狛犬」と呼んだのです。
平安時代はこの『獅子×狛犬』バージョンが、聖域を守る一対の霊獣として全国に広がっていきました。
しかし時代の変化とともに、二体の像も変容していきます。「狛犬」の角が取れ、二体はどちらも「獅子」に似た姿で作られるようになりました。ただ呼び名は「狛犬」のほうが広く浸透していたため、二体まとめて「狛犬」と呼ぶのが通例となります。
そして加工技術が発達するにともない、石工たちの手によって各地で個性的な狛犬が生み出されました。あとから入ってきた「唐獅子」に似せたもの、逆立ちさせたもの、ウサギに寄せたもの……と、旧来の獅子の姿とはかけ離れたものが増え、どちらが獅子でどちらが狛犬なのか、二体の区別はますます不明瞭になりました。やがて狛犬が大衆化されると「おおよその狛犬のイメージ」が世間で固まり、現在のような姿になったと考えられます。
つまり、現代でいう狛犬とは、獅子でも犬でもない“日本独自の霊獣”ということになります。
旧来の『獅子×狛犬』タイプの狛犬も各地に残っていますが、その場合は「口を開けているほうが獅子、閉じているほうが狛犬」と判断できるでしょう。前述したように、伝統的な狛犬には角が生えているため、それで見分けることも可能です。
ただ、狛犬であっても「獅子」と呼ぶこともあり、人によって多少の解釈違いはあるようです。
いかがでしたか。ちょっとややこしい歴史を持つ狛犬ですが、険しい表情ながらどこかユニークで愛らしいその姿に魅了される人は少なくありません。神社に立ち寄ったら、ぜひ狛犬の姿にも注目してみてくださいね。
狛犬とは、いったいどのような存在なのでしょうか。
狛犬の役割
狛犬は神様のいる本殿や拝殿の前、あるいは参道の両脇に二体一対で置かれていることが多く、その役割は神様を守るため、あるいは魔除けのためといわれます。正体については諸説ありますが、麒麟(きりん)や獏(ばく)のような架空の生き物、いわゆる「霊獣」のひとつだとされます。
「犬」という字が使われますが、見た目はたてがみを持った雄々しい姿で、犬というよりライオンのようです。これは、狛犬はもともと「獅子」が起源だったことに由来しています。
狛犬の起源
はるか昔の海の向こう、古代オリエントの時代。ライオンは権威と力の象徴として人々に崇められていました。ライオンは王とその一族を守る守護神と考えられ、玉座などインテリア装飾のモチーフとなったり、城門の前や王の墓前に獅子をかたどった像が置かれたりしました。現代まで残るエジプトのスフィンクスも、頭は人間ですが身体はライオンであり、王の墓であるピラミッドを守る役目を担っていると考えられています。やがてライオンの存在は東へと伝えられ、「獅子」として古代インドや中国の伝説に現れるようになりました。仏教では獅子は仏国土の守護神となり、釈迦が説法する場を「獅子座」と呼ぶなど、重要な立ち位置を占めるようになります。
こうして中国から朝鮮半島、そして日本へと、仏教を始めとする大陸の文化が伝えられると同時に、獅子もまた、日本にやってきました。この時に獅子は仏の守護獣で、二体一対で置かれるものだと伝わったようです。
狛犬の名の由来
狛犬の語源については、日本に伝来した当時の朝鮮王朝(唐)が「高麗(こうらい)」だったことから「高麗犬(こまいぬ)」という名で呼ばれ、やがて「狛犬」へと変化したというのが定説です。「狛」の字が当てられたのは、「狛」が朝鮮半島を含めた中国周辺の地(外の世界)を表すため、または「狛=神獣」の意味だからという説があります。
ただ「犬」の字が当てられてはいるとはいえ、この時伝えられたのは犬ではなく、あくまで架空の生き物である「獅子」です。その姿も、現代の狛犬とは大きく異なっていました。
ではなぜ「犬」と呼ばれたかというと、天皇の警護役が犬の鳴き声をまねて警備していたからという説、古代日本では下等なもの、取るに足らないもののことを「犬」と呼び習わしていたため、獅子を「正体不明の謎の生き物」と解釈したのだという説があります。いずれにせよ、はっきりとは分かっていません。
一対の獅子像が、狛犬と呼ばれるようになるまで
一対の「獅子」たちは、いつ、どのように、今の私たちが見るような「狛犬」の姿となったのでしょうか。実は日本に伝来した当初の獅子像の多くは、二体とも大きく口を開け、向き合うように造られた、左右対称(シンメトリー)の姿でした。しかし自然そのものの姿を尊重した古代の日本人は、人が作為的に生み出す「シンメトリー」よりも「アシンメトリー(左右非対称)」をより美しいと感じていました。そのため、まったく同じ獅子を並べるのをよしとせず、新たに“別の生き物”をつくり、獅子と組ませたのです。
二体のうちの片方は、これまでと同じ「獅子」で、大きく口を開けた姿。“阿吽の呼吸”でいう「阿形(あぎょう)」としました。そしてもう片方に、新たに生み出した“オリジナルの霊獣”を置き、獅子と一対としたのです。それは獅子のようでありながら頭に角が生えており、口をぐっと引き締める「吽形(うんぎょう)」の姿にかたどられました。この“オリジナルの霊獣”のほうを「狛犬」と呼んだのです。
平安時代はこの『獅子×狛犬』バージョンが、聖域を守る一対の霊獣として全国に広がっていきました。
しかし時代の変化とともに、二体の像も変容していきます。「狛犬」の角が取れ、二体はどちらも「獅子」に似た姿で作られるようになりました。ただ呼び名は「狛犬」のほうが広く浸透していたため、二体まとめて「狛犬」と呼ぶのが通例となります。
そして加工技術が発達するにともない、石工たちの手によって各地で個性的な狛犬が生み出されました。あとから入ってきた「唐獅子」に似せたもの、逆立ちさせたもの、ウサギに寄せたもの……と、旧来の獅子の姿とはかけ離れたものが増え、どちらが獅子でどちらが狛犬なのか、二体の区別はますます不明瞭になりました。やがて狛犬が大衆化されると「おおよその狛犬のイメージ」が世間で固まり、現在のような姿になったと考えられます。
つまり、現代でいう狛犬とは、獅子でも犬でもない“日本独自の霊獣”ということになります。
旧来の『獅子×狛犬』タイプの狛犬も各地に残っていますが、その場合は「口を開けているほうが獅子、閉じているほうが狛犬」と判断できるでしょう。前述したように、伝統的な狛犬には角が生えているため、それで見分けることも可能です。
ただ、狛犬であっても「獅子」と呼ぶこともあり、人によって多少の解釈違いはあるようです。
いかがでしたか。ちょっとややこしい歴史を持つ狛犬ですが、険しい表情ながらどこかユニークで愛らしいその姿に魅了される人は少なくありません。神社に立ち寄ったら、ぜひ狛犬の姿にも注目してみてくださいね。
<参考サイト>
・狛犬のいろはを学ぶ(奈良県歴史文化資源データベース)
https://www.pref.nara.jp/miryoku/ikasu-nara/komainu/iroha/
・狛犬とは(神社専門メディア 奥宮-OKUMIYA-)
https://okumiya-jinja.com/knowledge/komainu/
・狛犬のいろはを学ぶ(奈良県歴史文化資源データベース)
https://www.pref.nara.jp/miryoku/ikasu-nara/komainu/iroha/
・狛犬とは(神社専門メディア 奥宮-OKUMIYA-)
https://okumiya-jinja.com/knowledge/komainu/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性
ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24


