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『空想地図帳』に圧倒!奥深い地図の魅力を堪能せよ
子どものころ、白紙の上に地図を描いて遊んだことはありませんでしたか。自分の頭の中にある架空の街について、ああでもない、こうでもないと考えるのは楽しいものです。街の規模はどれくらいか、地形や気候はどうか。駅前には大きな商業施設があるのか、それとも小さな商店街がにぎわっているのか。住宅地は街の中心部からどれくらい離れていて、公園や学校、病院はどこにあるのか……。
このような「空想地図」を描いた経験がある人は多いでしょう。それを大人になっても趣味として、しかも驚くほどのクオリティで作り続ける人たちがいます。今回ご紹介する『空想地図帳 架空のまちが描く世界のリアル』(今和泉隆行著、学芸出版社)は、そのマニアックな世界の魅力を深掘りして紹介してくれます。
第2部「描き替わる中村市の空想地図」では、著者である今和泉隆行氏が子どもの頃から描き続けてきた「中村市(なごむるし)」について、実際の地図とともに都市の歴史や変遷が紹介されます。有識者たちとの「中村市 空想測量会議」も必見です。
第3部「空想地図を描いてみる」では、読者自身が空想地図を書くための方法や考え方が解説されます。具体的な課題を通じて都市や地理についての理解を深めていくことができ、まさに「空想地図塾」のテキストといった部分です。
作者の「空想」はそれだけにとどまりません。北神公国連邦が存在する惑星「天壌玉」の地図、つまり世界地図まで用意されています。世界の国々から、架空の大陸プレート、海流や気温、降水量、さらにはケッペン気候区分(この世界では修正ウラディミール気候区分)にあたるものまで地図化されているという徹底ぶりです。Adobe Photoshopを使って描かれた美麗な地図を見ていると、あたかも本当に存在するかのように感じてしまいますが、作者の想像力が産んだ究極の「空想地図」なのです。
次に、275きろぼると氏(@275kV)の「成元市(なるもとし)」を見てみましょう(ホームページ:架空の地図「成元市」)。井口県の県庁所在地である成元市は、古い歴史をもつ城下町から、現在は工業地帯が広がる政令指定都市へと発展しています。市中心部の駅前には、再開発を経て商業施設やオフィスビルが立ち並び、城址は公園として残っています。港湾部には工場や、倉庫、石油タンクが集まる工業地帯。郊外では、高度経済成長期に宅地造成が進み、計画的な開発が行われましたが、宅地のスプロール化も進行しています。
成元市の地図を詳しく見ると、宅地開発の時期の違いが見えてきます。秋田吉森バイパスと飯途川が交差するあたりの地域は、曲がりくねった狭い道路が多く、旧来の農家や農家が経営するアパートと新しい戸建住宅が混在します。一方、そこに隣接する峰ヶ台地区は、道路の間隔や規則的なカーブから見て、高度経済成長期以降に開発され、一斉に戸建住宅が分譲された新興住宅地であることがわかります。築30~40年ほどの家が多いでしょうから、そろそろリフォームが必要かもしれません。
今和泉氏の空想都市「中村市(なごむるし)」は、日本に似た内羅国の首都・西京の首都圏郊外に位置する、桑崎県の県庁所在地です。郊外の中心で、人口は150万人超。中心市街地である北部に限り、現在も詳細な都市地図が制作中です。地図だけでなく、市内にあるスーパーやコンビニの企業ロゴまで細かく作る徹底ぶりに驚かされます。
中村市は描き始めた当初から、何度も修正を繰り返し、姿を変え続けています。中学生から高校生のころに何度も書き直し、初期版が完成します。その後、大学時代に全国の地方都市を回った今和泉氏は、そこで得た知識と経験をもとに、地図の拡大・修正に取り組みはじめます。
30年近く存在しない都市を描き続け、次第に今和泉氏は自身の学習に限界を感じるようになりました。そこで実施されたのが、「中村市空想測量会議」です。ほとんど独学で作成された「空想地図」の細かな違和感を、研究者や測量会社の専門家たちに指摘してもらい、地図の修正・改良を目指すという企画です。地形や歴史、都市計画についての、今和泉氏と専門家たちのやり取りが本書には記録されています。架空の都市とはいえ、専門知識に基づく本格的な考察がなされており、とても興味深い内容となっています。
本書は前編カラー印刷で、収録された地図はどれも美しいものばかりです。そのため、単なる地図の解説本としてだけではなく、美術的価値のある作品集としても鑑賞することができます。レイアウトも優れており、とても見やすく、長時間眺めていても飽きません。書店で一度手にとって、この感動を味わっていただきたいですね。
本書で紹介されている「空想地図」には圧倒的なリアル感があります。「空想地図は、地上世界の形成と人間社会の大局的な流れを一人で再現できる、最も手軽なアウトプット」だという今和泉氏。極めれば、「空想」も現実以上に現実を説明しうるのです。本書が提供する「最高密度のジオフィクション」を、ぜひ体験してください。
このような「空想地図」を描いた経験がある人は多いでしょう。それを大人になっても趣味として、しかも驚くほどのクオリティで作り続ける人たちがいます。今回ご紹介する『空想地図帳 架空のまちが描く世界のリアル』(今和泉隆行著、学芸出版社)は、そのマニアックな世界の魅力を深掘りして紹介してくれます。
めくるめく「空想地図」の世界
本書は3部構成になっています。第1部「空想地図を読み解く」では、空想地図作者たちが実際に描いた架空の地図が16枚紹介されます。画像編集ソフトを用いて描かれた綺麗な地図から、手書きで書かれた味のあるものまで、さまざまな「空想地図」が楽しめます。第2部「描き替わる中村市の空想地図」では、著者である今和泉隆行氏が子どもの頃から描き続けてきた「中村市(なごむるし)」について、実際の地図とともに都市の歴史や変遷が紹介されます。有識者たちとの「中村市 空想測量会議」も必見です。
第3部「空想地図を描いてみる」では、読者自身が空想地図を書くための方法や考え方が解説されます。具体的な課題を通じて都市や地理についての理解を深めていくことができ、まさに「空想地図塾」のテキストといった部分です。
「空想地図」作品集――実例からみるこだわりポイント
第1部で紹介される16の「空想地図」から、二つほど見てみましょう。最初に紹介されるのは立雪譚氏(@tatenosettan331)の「北神公国連邦」です(ホームページ:蒼い雪国)。複数の公国からなる連邦国家であり、国土は全体的に冷帯気候。地図上には「霜降公国(首都:横井)」「楓上公国(首都:米津)」といった地名が並びます。北方に位置する公国ほど経済が発展しており、人口もこちらに集中。全人口は2800万人ほど。地形的には全体が火山帯に位置しており、各地に火山やカルデラが点在します。起伏に富む地形から、沿岸部にはリアス式海岸による入り組んだ海岸線と美しい景観が広がっています。作者の「空想」はそれだけにとどまりません。北神公国連邦が存在する惑星「天壌玉」の地図、つまり世界地図まで用意されています。世界の国々から、架空の大陸プレート、海流や気温、降水量、さらにはケッペン気候区分(この世界では修正ウラディミール気候区分)にあたるものまで地図化されているという徹底ぶりです。Adobe Photoshopを使って描かれた美麗な地図を見ていると、あたかも本当に存在するかのように感じてしまいますが、作者の想像力が産んだ究極の「空想地図」なのです。
次に、275きろぼると氏(@275kV)の「成元市(なるもとし)」を見てみましょう(ホームページ:架空の地図「成元市」)。井口県の県庁所在地である成元市は、古い歴史をもつ城下町から、現在は工業地帯が広がる政令指定都市へと発展しています。市中心部の駅前には、再開発を経て商業施設やオフィスビルが立ち並び、城址は公園として残っています。港湾部には工場や、倉庫、石油タンクが集まる工業地帯。郊外では、高度経済成長期に宅地造成が進み、計画的な開発が行われましたが、宅地のスプロール化も進行しています。
成元市の地図を詳しく見ると、宅地開発の時期の違いが見えてきます。秋田吉森バイパスと飯途川が交差するあたりの地域は、曲がりくねった狭い道路が多く、旧来の農家や農家が経営するアパートと新しい戸建住宅が混在します。一方、そこに隣接する峰ヶ台地区は、道路の間隔や規則的なカーブから見て、高度経済成長期以降に開発され、一斉に戸建住宅が分譲された新興住宅地であることがわかります。築30~40年ほどの家が多いでしょうから、そろそろリフォームが必要かもしれません。
「地図人」が30年以上創り続ける空想都市「中村市」
本書の著者である今和泉隆行氏もまた、「空想地図」作者の一人です。1985年生まれで、7歳の頃から実在しない都市の地図を描き続け、現在ではテレビやドラマ、ゲームの舞台の空想地図を作成・監修することもあります。魚を愛する「さかなクン」と同じように、地図と地理を愛する今和泉氏はまさに「地理人」といったところでしょう。ホームページ「空想都市へ行こう!」では、今和泉氏が作成した「空想地図」を実際に見ることができます。今和泉氏の空想都市「中村市(なごむるし)」は、日本に似た内羅国の首都・西京の首都圏郊外に位置する、桑崎県の県庁所在地です。郊外の中心で、人口は150万人超。中心市街地である北部に限り、現在も詳細な都市地図が制作中です。地図だけでなく、市内にあるスーパーやコンビニの企業ロゴまで細かく作る徹底ぶりに驚かされます。
中村市は描き始めた当初から、何度も修正を繰り返し、姿を変え続けています。中学生から高校生のころに何度も書き直し、初期版が完成します。その後、大学時代に全国の地方都市を回った今和泉氏は、そこで得た知識と経験をもとに、地図の拡大・修正に取り組みはじめます。
30年近く存在しない都市を描き続け、次第に今和泉氏は自身の学習に限界を感じるようになりました。そこで実施されたのが、「中村市空想測量会議」です。ほとんど独学で作成された「空想地図」の細かな違和感を、研究者や測量会社の専門家たちに指摘してもらい、地図の修正・改良を目指すという企画です。地形や歴史、都市計画についての、今和泉氏と専門家たちのやり取りが本書には記録されています。架空の都市とはいえ、専門知識に基づく本格的な考察がなされており、とても興味深い内容となっています。
「最高密度のジオフィクション」をぜひ体験ください
本書を読むと、実際に自分でも空想の都市を考えてみたくなります。都市部にしようか、地方にしようか。都市の名前はどんなものにしようか。駅前には何があって、住民はどこで買い物をするのか、などなど。考え始めるとワクワクしてきます。そんな人のために、本書の第3部では「空想地図」の具体的な書き方が解説されています。まず何から始めればいいのか、地図化にはどのようなツールを使えばいいのかなど、空想地図を書き始める第一歩に最適な内容が解説されています。本書は前編カラー印刷で、収録された地図はどれも美しいものばかりです。そのため、単なる地図の解説本としてだけではなく、美術的価値のある作品集としても鑑賞することができます。レイアウトも優れており、とても見やすく、長時間眺めていても飽きません。書店で一度手にとって、この感動を味わっていただきたいですね。
本書で紹介されている「空想地図」には圧倒的なリアル感があります。「空想地図は、地上世界の形成と人間社会の大局的な流れを一人で再現できる、最も手軽なアウトプット」だという今和泉氏。極めれば、「空想」も現実以上に現実を説明しうるのです。本書が提供する「最高密度のジオフィクション」を、ぜひ体験してください。
<参考文献>
『空想地図帳 架空のまちが描く世界のリアル』(今和泉隆行著、学芸出版社)
https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528560/
<参考サイト>
今和泉隆行氏のホームページ「空想都市へ行こう!」
https://imgmap.chirijin.com/
今和泉隆行氏のツイッター(現X)
https://twitter.com/chi_ri_jin
立雪譚氏(@tatenosettan331)のホームページ「蒼い雪国」
https://kitakami7kouren.jimdofree.com
275きろぼると氏(@275kV)のホームページ「俺の居場所」
https://urban-development.jp/
架空の地図「成元市」
https://ud-maps.net/narumotocity
『空想地図帳 架空のまちが描く世界のリアル』(今和泉隆行著、学芸出版社)
https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528560/
<参考サイト>
今和泉隆行氏のホームページ「空想都市へ行こう!」
https://imgmap.chirijin.com/
今和泉隆行氏のツイッター(現X)
https://twitter.com/chi_ri_jin
立雪譚氏(@tatenosettan331)のホームページ「蒼い雪国」
https://kitakami7kouren.jimdofree.com
275きろぼると氏(@275kV)のホームページ「俺の居場所」
https://urban-development.jp/
架空の地図「成元市」
https://ud-maps.net/narumotocity
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