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DATE/ 2024.08.05

『私はこうして勉強にハマった』ビリギャルの努力する楽しさ

 2015年に有村架純さん主演で映画化された『ビリギャル』。この作品は、塾講師の坪田信貴氏が書いたベストセラー小説『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)をもとにつくられていますが、その“ビリギャル”のご本人、小林さやかさんが新しく本を出版されました。

 そのタイトルは『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)。帯には大きく「見せてやるよ 本気」の文字。映画の主人公になってしまうようなドラマチックな経験をされたさやかさんが語るのは、まだ勉強に目覚めていない受験生のみなさんへのメッセージです。

勉強にハマった“ビリギャル本人”が教える勉強法

 勉強は学年ビリ、偏差値は全国模試で30以下だったという、ビリギャル本人さやかさん。1988年生まれの彼女は現在36歳になりました。慶應大学合格という大きなタイトルが目を引きますが、大学を卒業後、聖心女子大学大学院に進学。その後、アメリカのコロンビア大学教育大学院の認知科学プログラムに留学し、2024年の春にその過程を修了されています。

 さやかさんは本書の冒頭で、「勉強ができる人はなにも特別な人間じゃない。勉強ができる人はただ『正しい努力の仕方』と『努力する楽しさ』を知っているだけ」と語ります。ときに、わたしたちは、成果だけを見て、“元から持っている才能”や“地頭のよさ”という、ふんわりとした言葉で片付けてしまうことがあります。

「成功したら『もともとDNAがいいんだわ』とか言われて、失敗したら『ほら無理っていったじゃん』って言われるだけ」。そう感じ、そこに“ムカついた”さやかさんは、コロンビア大学で認知科学(「人がどうやって考えたり、学んだり、覚えたりするのか」ということを研究する学問)を勉強することにしたのだとか。

 本書は、そんなさやかさんが乗り越えた受験期の大きな経験と、慶應大学、聖心女子大学大学院、そしてコロンビア大学という3つの大学で学んだ学術的な知識をもとに書き上げた勉強法のアドバイス書であり、“ビリギャル”だった当時を振り返るエッセイでもあります。

「モチベーション」「戦略」「環境」の大切さ

 さやかさんは、本書のなかで、結果を出すための正しい努力と、それに必要な要素として、「モチベーション」と「戦略」、そして「環境」の3つが重要なのだと語ります。

 もともと、さやかさんが慶應大学を受験しようとしたきっかけは、人気グループ・嵐のメンバー、櫻井翔さんが慶應大学を卒業したということをテレビで知ったからなのだとか。それが、大きなモチベーションの一つとなっていたそうです。また、戦略とは、限られた時間のなかで、どうやって目標(ここでは志望する大学に合格するということ)にたどりつくかといったこと。そして、環境とは、モチベーションを維持しながら、戦略を実行できる場を整えることです。

 この3つの考えを基礎にしながら、本書はモチベーション編、戦略編、実践編、環境編の大きく4つの章で成り立っています。全体的に親しみやすい文章がさやかさんの飾らない性格を感じさせる一方で、大学受験期の苦労と努力、そしてそこから芽ばえた学問への関心の高さは、受験を終え、就活も終えた多くの人にも生かすことのできる貴重な内容となっています。

専門知識が裏付けるアドバイスのかずかず

 本書が平易で読みやすい文章で書かれているとはいえ、用いられる専門的な用語や考え方、理論などはコロンビア大学の研究過程を修了されたさやかさんならではというべきものです。

 記憶のメカニズムや「ワーキングメモリ」という短期記憶の扱い方、時間の経過や自分の感覚を忘れるくらい集中する「フロー」という状態について、そのために効果的なポモドーロ・テクニック、メタ認知の鍛え方。そしてモチベーションの維持、目標の設定の仕方やその案配、自己肯定感と自己効力感の違いなど──本書に記された勉強のテクニックや知識は多岐にわたります。また、ChatGPTやGoogleの翻訳機能などを使った勉強法も必見です。

 いずれもさやかさんの実体験をもとに、受験生のみなさんへ向けた優しい目線で語られているため、すんなりと頭のなかに入ってきます。

努力するという経験こそが人生を変える

 本書の最後には、「これから受験をするあなたへ」というメッセージが書かれています。

「私は、もちろん、あなたが志望校に合格することを心から願っています」と記すなかで、さやかさんは慶應大学の受験で一度落ちたときの話をしています。そのとき、さやかさんは冷静にその事実を受けとめることができたそうです。それは、「自分から見える世界が、ビリでギャルだった1年半前とは、まったく違っていたから」なのだとか。

 人は結果を気にする生き物です。冒頭の記述のように、受かれば「DNAがよかったから」、落ちれば「ほら無理」とレッテルを貼られることもあります。しかし、さやかさんは「結果よりも重要なのは『プロセス』であるということを、どうか忘れないでほしいです」と続けます。努力が全て酬われるわけではなく、望んだ結果が手に入らないこともあります。でも、努力するという経験は、努力した人の人生を変えていくのです。

 受験の仕方や努力の方法に悩んでいる受験生のみなさん、そして、未来に悩み、青春真っ盛りのお子さんをお持ちの保護者の方々、そしてそして、社会に出てモチベーションや努力の方法がわからなくなってしまったという大人のみなさん。ぜひ一度、本書をお手に取って読んでみてはいかがでしょうか。きっと自分なりの「がんばり方」、そのヒントに出会えるはずです。

<参考文献>
『私はこうして勉強にハマった』(ビリギャル本人さやか著、サンクチュアリ出版)
https://www.sanctuarybooks.jp/book/detail/1505

<参考サイト>
小林さやか氏のX(旧Twitter)
https://x.com/sayaka03150915
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