社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2025.11.17

「クリスマスにチキン」は日本だけ?

日本のクリスマス文化は独特?

 クリスマスが近づくと、街の景色や音楽もクリスマスムードに彩られて、やはり心がうきうきしてきますよね。当日はどこも混雑するので、ホームパーティを楽しむ予定の方の中には、「チキンやケーキの予約はもうすませた」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 骨付きチキンといちごの乗ったホールケーキは、クリスマスの定番ですよね。しかし実は、日本独特の文化だということをご存知でしょうか。世界のクリスマスの定番には、次のようなものが上げられます。

・アメリカ:七面鳥のローストが定番。19世紀に移民がアメリカを開拓しはじめたとき、深刻な食糧不足を救ったのが、先住民に分け与えてもらった七面鳥でした。のちに豊作を迎えた移民が先住民に感謝を込めて食事をふるまったことから、七面鳥は感謝のしるしの食べ物となり、クリスマスや結婚式のような行事の定番料理になったといわれます。

・イギリス:クリスマスプディングというお菓子が定番。ナッツやドライフルーツが入ったドーム型ケーキで、スパイスと洋酒が効いた濃厚な味わいです。プディングというと日本ではスイーツのプリンのイメージが強いですが、イギリスでは複数の食材を混ぜて蒸した料理全般をプディングといい、クリスマスプディングもじっくり蒸して作ります。

・ドイツ:近年では日本でもよく知られるシュトーレンが定番。小麦粉の生地に洋酒漬けのドライフルーツやナッツを練りこんだお菓子です。キリストの産着を表現しているともいわれる、白い粉砂糖をたっぷりまぶした表面が特徴的。熟成させて楽しむお菓子なので、伝統的には12月の1か月間をかけて少しずつ切り分けながら食べ進めます。

・フランス:こちらも近年では日本でもよく見かけるブッシュ・ド・ノエルが定番。「クリスマスの薪」を意味する名前のとおり、切り株に見立てたロールケーキです。木がモデルになっている由来は、キリストの降誕を祝って暖炉に何日も薪をくべ続けた伝説からとも、丸太の灰は魔除けになるという言い伝えからともいわれます。

 世界の定番を見てみると、日本の定番が独特ということがよくわかりますよね。

なぜチキンとケーキが定番化したのか?

 それでは、「チキンとケーキ」という日本独自のクリスマスの定番は、いつからどのように根づいたのでしょうか。

 チキンに関しては、そもそも日本では七面鳥が手に入りにくいという事情があったようです。このため、日本で手に入れやすいお肉の中から鳥つながりでチキンを食べるようになったというわけです。チキンは比較的ヘルシーなお肉ということもあり、日本で人気を獲得しました。

 そして決定打になったと考えられているのが、アメリカ発のフライドチキンチェーン・ケンタッキーフライドチキン(KFC)のクリスマスキャンペーンです。1970年に日本初上陸を果たしたKFCは、その数年後から「クリスマスにはフライドチキンを食べよう」というクリスマスキャンペーンを開催しました。当時の日本では骨付きチキンをファストフードとして食べる体験はとても新鮮だったので、人々の関心を大きく集めて定番化に成功したのです。

 このキャンペーンのきっかけとなった説のひとつに、「七面鳥が手に入らないためフライドチキンでクリスマスを祝いたいという日本在住の外国人が来店した」というものがあります。これが真実かはわかりませんが、KFCがクリスマスに隠された売上アップの好機をしっかりつかまえた結果であることは間違いないといえそうです。

 一方、クリスマスケーキのはじまりはもっと古く、明治時代の1910年にさかのぼります。現在の洋菓子チェーン・不二家の原点となる、藤井林右衛門の洋菓子店でクリスマスケーキを発売したのが、日本のクリスマスケーキのはじまりとされます。こののち、一大企業となった不二家は終戦後の1950年代ごろから本格的にクリスマスケーキのキャンペーンを開催し、日本のクリスマスにおけるケーキの定番化に成功したのです。

 日本のクリスマスの定番は、商機を活かした企業戦略によって根づいていたのですね。いわゆる“本格的”な七面鳥やクリスマスプディングにこだわりすぎず、「七面鳥が手に入りにくいからチキン」というような切り替えの発想によって、海外から輸入されたクリスマスを日本でも楽しみやすくしたことが成功の秘訣だったといえるでしょう。

<参考サイト>
・なぜ日本だけクリスマスにチキンを食べるの?定番化した背景やルーツを解説|HANKYU FOOD おいしい読み物
https://web.hh-online.jp/hankyu-food/blog/lifestyle/detail/002406.html
・クリスマスケーキを食べるようになったのはなぜ?お菓子パーティの提案も!|恵那川上屋
https://column.enakawakamiya.co.jp/western/why-christmas-cake.html
・不二家の歴史|不二家
https://www.fujiya-peko.co.jp/company/about/history/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
2

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
3

図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」

図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」

歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用

公共図書館では質の高い「レファレンス」サービスを提供しているが、活用する人は限られている。だが、実は全国の図書館ネットワークを縦横無尽に活用できる、驚くほどに便利な仕組みなのだ。今回は図書館のレファレンスで何が...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/15
4

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
5

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11