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DATE/ 2025.11.17

忘年会の起源は鎌倉時代ってホント?

忘年会の歴史を紐解いてみると…?

 年末の風物詩といえば、忘年会。職場の部署や仲間内で集まって、食事や飲酒をしながら過ぎゆく年を語り合う、いわゆる“飲み会”の一種ですよね。しかし、もともとの忘年会はこのスタイルではなかったのだとか。

 歴史を紐解いてみると、忘年会の源流は鎌倉時代の大みそかに開催された「年忘れ」といわれます。これは、貴族や武士が連歌(複数の人が和歌の上の句と下の句をリレー形式で詠みあって、ひとつの歌にまとめるタイプの和歌)を詠み交わすという静かで雅な文芸の会でした。つまり、もともとは宴会のように騒ぐ場ではなかったのです。この様子が変わってくるのは、室町時代に入ってから。室町時代前期に書かれた日記文学『看聞日記』によると、年忘れの連歌会はお酒が入って盛り上がり、乱舞する人までいたようです。このころから、現在の忘年会のイメージに近づいたようですね。

「忘年会」という言葉は、江戸時代半ばに書かれた随筆『古今物忘れ』に登場する点から、江戸時代には使われていたようです。そして、夏目漱石の小説『吾輩は猫である』にも「忘年会」が使われており、明治時代には定着していた様子がうかがえます。

 忘年会の起源は鎌倉時代と考えられますが、現在のようなスタイルになったのはもう少し時代を経てからなのですね。ただし、一年間の労をねぎらって新年を晴れ晴れとした気持ちで迎えるための集まりという点は同じといえるでしょう。

変化していく忘年会事情

 さらに時代が進んで昭和から平成初期になると、忘年会は会社の年中行事として定番化します。温泉地に宿泊したり、大宴会場で余興を発表したりする大規模なものも増え、組織の結束力を強めるイベントと位置づけられてきました。しかし、平成後期になってSNSの利用が活発になると、「業務外の時間に会合を強制されたくない」、「上下関係を強調される飲み会は苦手」などの忘年会に消極的・否定的な考え方が可視化されるようになります。この結果、参加を強要しない、そもそも実施しないという選択も増えました。

 そして、コロナ禍を経た現在。2024年末の企業における忘年会実施率は約60%と回復傾向にありますが、コロナ前の水準には達していないのが現状です。実施理由では「親睦のため」や「士気向上のため」が上位を占めますが、一方でコロナ禍前は実施していた忘年会を、現在は中止した企業も少なくありません。中止した理由では、「開催ニーズが高くない」や「参加者の抵抗感」などが上位を占めます。また、「忘年会は労働時間ではない」と90%近い企業が考えているのに対し、業務の延長に感じている従業員との感覚のずれがSNSなどで可視化されていることも、忘年会の規模縮小に影響しているでしょう。

 このような傾向を踏まえて、令和の忘年会は「大人数・一極集中・恒例行事」から「小規模・分散・目的明確」へと変わっています。企業側ではランチ会やノンアル開催、オンライン飲み会などで参加ハードルを下げ、飲食店側も新たなニーズに応える“少人数で落ち着いて語れる空間”などを提供するなどの工夫が広がっています。忘年会をかつての“大宴会”とは異なる、「語り合う意義のある時間」にしようという考えが確実に浸透しているのです。

現在の忘年会の存在意義とは

 それでは、もう忘年会は開催しないほうがいいのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。時代が変わっても、誰であっても、職場の人や仲間と親交を深めたい気持ちは同じですよね。これからの忘年会は、以下のような点に気を配って開催するとよいでしょう。

・安心して参加できるか:特に若い人は、意思に沿わないことの強制を嫌がります。全員強制参加を避けるのは当然として、アルコールが苦手な人や夜間は時間が取れない人も参加できるかなどに配慮しましょう。関係性の強要も、苦手意識の強い人が多いです。相互をリスペクトしてフラットに語れる場であるとしっかり伝えることが大切です。

・価値があると思えるか:その忘年会に参加してどんなことを“持ち帰り”できるのか示しましょう。難しい内容でなくても、「一年間に学んだことを共有したい」などでいいのです。集まってただ騒ぐだけではないとわかれば、価値を感じてくれる人は多いもの。特に職場での忘年会は給与が発生しないので、価値をきちんと伝えましょう。

 以上のようなセッティングができれば、規模が小さくても満足度が高く、来年への士気を高める忘年会ができるはずです。なお、忘年会は日本独自の文化。欧米では仕事とプライベートをきっちり分けるのが主流なので、仕事と同じ軸で忘年会をするという発想はないそうです。

 歴史から読み取れるように、忘年会は“時代を映す鏡”といえます。鎌倉時代の厳かな「年忘れ」からはじまった忘年会は、時を経て「共感と意義」のもとに開かれるものへと変容しました。令和の忘年会は無理なく集まって温かい絆を育てる――そんな場になると気持ちのいい関係性を築けるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・【2025年】忘年会はいつ? 忘年会の意味とは?いつから始まったの?|日本文化研究ブログ
https://jpnculture.net/bounenkai/
・忘年会の実施状況 企業のニーズと価値観の変化が浮き彫りに 2024年 年末年始|coki
https://coki.jp/article/column/43147/
・忘年会に関する素朴な疑問を紐解く|Manegy
https://www.manegy.com/news/detail/733/
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