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DATE/ 2016.06.04

膝の痛みは薬では治らない!名医が語る「運動療法」


 日本人の平均寿命は厚生労働省が発表した2014年の統計によると、男性の平均は80.50歳、女性は86.83歳で、男女ともに80歳を超え、前年に続き記録を更新中。ご存知のとおり、日本は誰もが知る長寿国です。

 しかし、高齢になると、やはりどこかしらに体の不調が出てくるもの。体が思うように動かないため、介護を必要とする人は約400万人にものぼるといわれています。そのなかでも骨や関節の不調を理由にする人は約15~20パーセントもいるそうです。

 そこで、骨や関節、特にヒザの痛みの名医として知られる順天堂大学医学部整形外科学特任教授の黒澤尚先生にヒザの痛みを伴う「変形性膝関節症」と、先生が提唱する「運動療法」についてお聞きしました。

加齢とともに軟骨がすり減る

 黒澤先生によると、膝関節の上下の骨が擦り合う面で骨のクッションの役割を果たし、摩擦のない動きのために働く軟骨が、加齢とともにすり減って炎症が起こすのが「変形性膝関節症」だそうです。黒澤先生はこう言います。

 “軟骨の特徴は、加齢とともにだんだんすり減ってきてしまうことです。なぜかというと、骨とは違って、再生能力がゼロだから。そうすると、50歳くらいになると、人生50年を生きてきたために、表面から少しずつ物理的に破綻を来してすり減ってくることがあります。すると、関節の表面の摩擦係数が非常に増えて、ザラザラ、ゴツゴツとなってきて、そしてそれが原因で炎症が起きます。これが「変形性関節症」といわれるものです。”

 軟骨は再生しない。つまり加齢とともに軟骨がすり減るとすれば、誰にでもこの症状は起こりうるということです。「まだまだ若いから大丈夫」と思っていても、いずれは…。ではどう治療すればいいのでしょうか。気になるところです。

一般の病気に原因を治療するものはほとんどない

 結論からいうと、根本から解決するような治療法はないそうです。しかも、それは「変形性膝関節症」に限らない……。黒澤先生はこう話してくれました。

 “一般に言う病気の「治療」には、原因を治す治療法というものはほとんどありません。広く言って、患者さんは医学の進歩によって大きな恩恵を受けていますが、実は感染症以外の病気で原因を治す治療法はないのです。”

 「変形性関節症」も薬で痛みを和らげる治療法が一般的。しかし、これは薬で痛みを散らすだけなので、一時しのぎだそうです。黒澤先生の話は続きます。

 “そういう一時しのぎの治療法を続ければ、5年、10年とたつにしたがって、軟骨はさらにどんどん減っていって、ついには歩行困難になります。あるいは、ヒザの形がひどく変形していきます。それも、軟骨の内側が減るという片減りをするものですから、内側が減って0脚になっていきます。町で時々見受けるそういう人たちは、たいていこの変形性膝関節症です”

 薬で散らして痛みを和らげたとして、悪化することはあっても改善することにはならないとなると、時間も費用もかかる治療に対するモチベーションをどう保てばいいのか、考えさせられてしまいます。ではどうすればいいのでしょうか。

「運動療法」が世界基準に

 “私は、そういう一時しのぎの抗炎症剤、痛み止めや注射をするという方法に、30年以上前から疑問を持ってきました。そして、1980年代から、そういう薬を使わず、痛みが楽になる、あるいはなくなる、そして、続けていけば脚の筋肉や関節が丈夫になり、さらなる進行を遅らせる、あるいは、進行を止めるような前向きな方法をずっと行ってきました。”

 「前向きな方法」、そう、これが黒澤先生の提唱する「運動療法」なのです。わずか5分から10分ほどでカンタンにできる体操で、70歳、80歳といった高齢者の方でも家の中で無理なくできるものです。

 そしてこの「運動療法」が、国際的な関節症の学会(OARSI)で2000年に作成されたガイドラインで世界基準として認められました。悪化するのを待っているだけよりも、カンタンな体操を続けるだけで痛みを和らげることができれば、やりがいもあるし、患っている方も前向きな気持ちで取り組めるのではないでしょうか。費用も手間もかからない「運動療法」、気になる方はぜひご参考にしていただければ。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授