社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
膝の痛みは薬では治らない!名医が語る「運動療法」
日本人の平均寿命は厚生労働省が発表した2014年の統計によると、男性の平均は80.50歳、女性は86.83歳で、男女ともに80歳を超え、前年に続き記録を更新中。ご存知のとおり、日本は誰もが知る長寿国です。
しかし、高齢になると、やはりどこかしらに体の不調が出てくるもの。体が思うように動かないため、介護を必要とする人は約400万人にものぼるといわれています。そのなかでも骨や関節の不調を理由にする人は約15~20パーセントもいるそうです。
そこで、骨や関節、特にヒザの痛みの名医として知られる順天堂大学医学部整形外科学特任教授の黒澤尚先生にヒザの痛みを伴う「変形性膝関節症」と、先生が提唱する「運動療法」についてお聞きしました。
加齢とともに軟骨がすり減る
黒澤先生によると、膝関節の上下の骨が擦り合う面で骨のクッションの役割を果たし、摩擦のない動きのために働く軟骨が、加齢とともにすり減って炎症が起こすのが「変形性膝関節症」だそうです。黒澤先生はこう言います。“軟骨の特徴は、加齢とともにだんだんすり減ってきてしまうことです。なぜかというと、骨とは違って、再生能力がゼロだから。そうすると、50歳くらいになると、人生50年を生きてきたために、表面から少しずつ物理的に破綻を来してすり減ってくることがあります。すると、関節の表面の摩擦係数が非常に増えて、ザラザラ、ゴツゴツとなってきて、そしてそれが原因で炎症が起きます。これが「変形性関節症」といわれるものです。”
軟骨は再生しない。つまり加齢とともに軟骨がすり減るとすれば、誰にでもこの症状は起こりうるということです。「まだまだ若いから大丈夫」と思っていても、いずれは…。ではどう治療すればいいのでしょうか。気になるところです。
一般の病気に原因を治療するものはほとんどない
結論からいうと、根本から解決するような治療法はないそうです。しかも、それは「変形性膝関節症」に限らない……。黒澤先生はこう話してくれました。“一般に言う病気の「治療」には、原因を治す治療法というものはほとんどありません。広く言って、患者さんは医学の進歩によって大きな恩恵を受けていますが、実は感染症以外の病気で原因を治す治療法はないのです。”
「変形性関節症」も薬で痛みを和らげる治療法が一般的。しかし、これは薬で痛みを散らすだけなので、一時しのぎだそうです。黒澤先生の話は続きます。
“そういう一時しのぎの治療法を続ければ、5年、10年とたつにしたがって、軟骨はさらにどんどん減っていって、ついには歩行困難になります。あるいは、ヒザの形がひどく変形していきます。それも、軟骨の内側が減るという片減りをするものですから、内側が減って0脚になっていきます。町で時々見受けるそういう人たちは、たいていこの変形性膝関節症です”
薬で散らして痛みを和らげたとして、悪化することはあっても改善することにはならないとなると、時間も費用もかかる治療に対するモチベーションをどう保てばいいのか、考えさせられてしまいます。ではどうすればいいのでしょうか。
「運動療法」が世界基準に
“私は、そういう一時しのぎの抗炎症剤、痛み止めや注射をするという方法に、30年以上前から疑問を持ってきました。そして、1980年代から、そういう薬を使わず、痛みが楽になる、あるいはなくなる、そして、続けていけば脚の筋肉や関節が丈夫になり、さらなる進行を遅らせる、あるいは、進行を止めるような前向きな方法をずっと行ってきました。”「前向きな方法」、そう、これが黒澤先生の提唱する「運動療法」なのです。わずか5分から10分ほどでカンタンにできる体操で、70歳、80歳といった高齢者の方でも家の中で無理なくできるものです。
そしてこの「運動療法」が、国際的な関節症の学会(OARSI)で2000年に作成されたガイドラインで世界基準として認められました。悪化するのを待っているだけよりも、カンタンな体操を続けるだけで痛みを和らげることができれば、やりがいもあるし、患っている方も前向きな気持ちで取り組めるのではないでしょうか。費用も手間もかからない「運動療法」、気になる方はぜひご参考にしていただければ。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
遍歴とアバター…多様な仏、多様な菩薩が変容する面白さ
おもしろき『法華経』の世界(5)遍歴するアバター
『銀河鉄道の夜』の著者・宮沢賢治にとってもそうだが、『法華経』の重要なテーマは「遍歴」であると考えられる。遍歴や修行の旅は、仏教的には方便を用いて悟りに向かうことだが、『大日経』住心品には悟りと大悲こそが究境と...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/06/29
最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか
第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ
反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
注目は納豆!腸内細菌が生成する若返り物質「ポリアミン」
腸内細菌の可能性とマイクロバイオームのダイバーシティ
近年、腸内細菌のさまざまな働きが明らかとなり、病気の治療や予防に加え、アンチエイジングにも効果のあることが分かってきた。人間と古いつき合いでありながら、新しい可能性に満ちた腸内細菌のパワーについて、順天堂大学医...
収録日:2016/06/27
追加日:2016/08/27
鎌田東二先生の講義で「人生の究極の境地」を体感する
編集部ラジオ2025(13)鎌田東二先生の講義集
鎌田東二先生が令和7年(2025年)5月30日にご逝去されました。鎌田先生は神道学者でいらっしゃると同時に、世界の神話や神秘思想にも深く通暁され、行動的かつ実践的に「知」と「社会」と「人の生き方」との連携を軽やかに推し...
収録日:2025/06/11
追加日:2025/06/26
江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事
AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か
昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25