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DATE/ 2018.07.27

今なぜ「薬局」が増えているのか?

 街にあふれる薬局は増加の一途をたどり、最新の統計データ(2016年度末時点)では薬局数は58,678カ所となっています。この数は同時期のコンビニの店舗数54,018店を上回っており、さらに前年度の2015年度に比べ352カ所(0.6%)増加しています。

 今なぜ薬局が増えているのでしょうか。考察してみたいと思います。

なぜ薬局が増えているのか?

 薬局、特に調剤薬局増加の最大の理由は、「出店すれば儲かるから」です。その背景には「医薬分業」を推進したいという国策があります(『週刊東洋経済』(2017年11月11日号))。

 長らく日本では病院内で薬を受け取る「院内処方」が主流でしたが、この業態では多く薬を出すとそれだけ収益が増すため、患者に不要な薬まで大量に出す「薬漬け医療」が問題になっていました。

 そこで国は「医薬分業元年」ともいわれる1974年、1)処方される薬を医師と薬剤師の双方がチェックすることで安全性を担保する、2)薬漬け医療を減らすことによって医療費を大幅に抑制できることを狙って、院外処方の処方箋料の大幅な引き上げを行うことで、医薬分業への利益誘導を試みました。

 これをビジネスチャンスととらえた、多くの製薬会社のMR(医薬情報担当者)出身者たちが薬局経営に乗り出しました。調剤は、粗利が30~40%も計上されるうえに保険収入のため取りはぐれがないという大きなメリットがあります。そのため、薬局の市場規模は拡大を続け、「薬剤師の悲願」ともいわれた医薬分業も7割超に達し、多数の薬局が出店される今となりました。

 その中でも病院の前にあり、日々多数の処方箋が半自動的に持ち込まれる、いわゆる「門前薬局」は、1)顧客開拓の必要がない、2)在庫リスクが小さいという、門前薬局独自のうまみもあるため、増加の一途をたどっているといわれています。

 しかし、医薬分業を進めるために、院内処方より高く評価されてきた院外処方の技術料分は診療報酬に上乗せされるため、医薬分業が進むほど医療費は増加し、患者のコスト負担も国の医療費も膨らむ結果となり、新たな社会問題にもなっています。

多様化する薬局と「マイベスト薬局」の選び方

 増加する薬局は、多様化も進めています。医薬ジャーナリストの藤田道男氏は、薬局業界で注目を集めるクオールが、コンビニの利便性と薬局の専門性を融合させた「コンビニ&調剤」の新業態をローソンと開発したことを紹介(『最新薬局業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』)。現在、「ナチュラルローソンクオール○店」または「ローソンクオール○店」の名称で、首都圏を中心に30店以上の出店が行われています。

 また、宮本薬局もファミリーマートと組んだ、「ファミリーマート+ミヤモトドラッグ○店」を展開しており、コンビニと一体化した薬局の展開が増えています。

 ほかにも、ココカラファインやスギ薬局を運営するスギホールディングスなど、処方箋調剤に対応する大手ドラッグストアチェーンも増えています。

 ドラッグストアでの調剤対応は、営業時間が比較的長く土日も営業していることが多いためサラリーマンにも利用しやすかったり、薬の受け取りを待つ間にOTC薬や日用品の買い物ができたり、調剤薬にもポイントがたまったりする利便性があります。

 しかし、これだけ増加し多様化した薬局から、自分にあった薬局をみつけることはかえって難しくもあります。数多の薬局からよい薬局を選ぶポイントとして藤田氏は、まずは住まいや職場の近くで信頼できる調剤師のいる薬局を選んだうえで、「大事なのは、調剤してもらう薬局を1カ所に決めておき、服用しているすべての薬の管理と指導を任せること」としています。

 その反対に、現役の薬剤師に聞いた「絶対に行ってはいけない“ダメな薬局”」としては、次の6箇条をあげられています(『薬局の大疑問』)。

 1)薬剤師にコミュニケーション能力がない、2)ジェネリック医薬品を勧めすぎる、3)パートの従業員が多すぎる、4)上から目線で一方的に決めつける、5)医師の言いなりになっている、6)新しい情報を取り入れない。

これから薬局はどうなるっていくのか?

 今後、薬局はどうなっていくのでしょうか。

 一代で大手調剤薬局チェーン店を築いた、日本調剤社長で薬剤師の三津原博氏は、「薬局はこれから半分以下になるだろう」と提言しています(『週刊東洋経済』)。ただし、7割超となった医薬分業に対して、「残りの30%は院外薬局にとっては伸びしろになる<中略>成長余地はまだある」とも述べつつ、ジェネリック医薬品への可能性などを示唆しています(『日本経済新聞』2016年9月4日付)。

 他方、2018年度中の開始をめざす、処方箋薬のネット・スマートフォン・テレビ電話などでの「遠隔服薬指導」の先駆けとして、特区でのオンラインの再診や処方、服薬指導や薬の配送が、2018年5月30日から実施されることになりました(『日本経済新聞』2018年5月30日付)。

 薬局の形態や薬剤師の役割も、時代に応じて変わらざるを得ないことでしょう。増え続ける薬局が、変わり続ける薬局としていつまでも社会に存在し続けるのか。気になるところです。

<参考文献・参考サイト>
・「薬局の正体」、『週刊東洋経済』(2017年11月11日号)
・『最新薬局業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(藤田道男著、秀和システム)
・「絶対に行ってはいけないダメな薬局6箇条(鈴木光司)」、『薬局の大疑問』(宝島社)
・総務省統計局:薬局数及び医薬品等営業許可・届出施設数
http://www.stat.go.jp/library/faq/faq21/faq21d04.htm
・日本経済新聞:苦しい調剤薬局、戦略は?(2016年9月4日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO06852890T00C16A9TJC000/
・日本経済新聞:処方薬、ネットで服薬指導・受け取り 通院負担軽く」(2018年5月30日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31157240Q8A530C1EA2000/
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テンミニッツTV編集部
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