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ヒトの脳の進化を決定づけた「三項関係の理解」
ヒトの進化を物語る「あり得ないほど大きな脳」
業績が頭打ち。収入が、成績が頭打ち…こんな頭打ち現象に悩まされた、あるいは、今まさに悩まされている方も多いと思いますが、今回はヒトの進化の過程で見れば、人類はこの頭打ち現象を見事に突破しているというお話です。そのヒトの進化を物語る何よりの証拠が私たちの大きな脳なのですが、自然人類学者で総合研究大学院大学副学長・長谷川眞理子氏によれば、ヒトの脳は「あり得ないほど大きな脳」なのだそうです。動物は、体の大きさに比例して脳も大きくなるのですが、それでもある程度の大きさになると頭打ち曲線を描くようになります。霊長類でいえば、体重およそ70キロのオランウータンも、およそ100キロのゴリラも、脳は大体380から400グラム程度。しかし、ヒトは体重60キロくらいだとすると、脳の重さは1200から1400グラムになるのです。
「三項関係の理解」能力がヒトの進化に貢献
では、なぜヒトはこのように脳を大きく進化させることができたのでしょうか。そしてまた、なぜその大きな脳をもって、劇的なヒトの進化を成し得たのでしょうか。その理由の第一に、ヒトの進化において「三項関係の理解」という能力を得たことが挙げられます。たとえば、私とあなたの間に一本の花が咲いているとしましょう。そして、その花を私もあなたも近くで見ているとします。すると、「私は花を見ている」「あなたもその花を見ている」「あなたは、『私があなたと同じ花を見ていること』を知っている」「私は、あなたが『私とあなたが同じ花を見ていること』を知っている、ということが分かっている」というように、いわばヒトは何重もの入れ子構造で物事を理解することができます。このことが、「三項関係の理解」が意味していることなのです。
こうした「入れ子構造で理解する」というのは平たくいえば、お互い、他の人の考えていることを想像したり、シミュレーションしてみることができるということです。それはつまり、そうすることによって、思いを共有したり分かり合えたりできる、ということです。このような複雑な理解のシステムは、ヒトの進化の過程で大きな脳を持ったからこそ、獲得した能力なのです。
共通基盤を意識することで脳は発達した-社会脳仮説
このような入れ子構造型の理解、思いの共有は、私たちが想像する以上に、ヒトの進化において重要な役割を担ってきました。なぜならば、この「思いの共有」がなければ、言葉は機能しないからです。ただ単に、一人一人がそれぞれの心の中でイメージを持つ、考えを持つ、というように閉じてしまっていては、言葉はその機能を発揮しきれず、単なる信号で終わってしまいます。やはり、共通の基盤に立って思いを共有しようとしたところではじめて言葉は機能し、ヒトは知識や情感、イメージといったものを人類共通の財産にすることができたといえるでしょう。このように、お互いの関係の中で思いを共有しようとする脳の働きも、脳を大きくさせてヒトの進化につながった一因であると考えられており、それを「社会脳仮説」と呼ぶそうです。脳もひとりぼっちではいられない。人類はお互いの関係があってこそ、「脳力」を伸ばしたということですね。
ヒトの進化は「思いの共有」あってこそ
「三項関係の理解」「社会脳仮説」と聞くと、なんだか難しそうですが、つまりは、私とあなたがいて、それぞれが思いを抱いて、お互いがそのことを知り、思いを共有しようとしたところからヒトの進化は始まった、ということです。そういわれると、これから言葉やコミュニケーションをおろそかにはできませんね。~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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