社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.02.28

真冬になぜ熱中症?意外なところに潜む罠

 もう春を迎えようとしているのに、まだまだ寒い日が続きますね。こんなとき、気をつけたいのが熱中症。「え?夏でもないのに熱中症?信じられない」という方もいるかと思います。産経ニュースでは今年(2017年)1月、「冬でもかかる熱中症 まさか、●●●の中で」と題して熱中症のことが取り上げられており、60歳の男性会社員が熱中症に苦しんだという記事が載っていました。

 いったいなぜ冬に熱中症が起こるのでしょう?実は思いもよらないところに原因がありました。

体は意外に脱水している

 夏に脱水を起こさないよう、よく水を飲む方は多いと思いますが、冬までそこに気をつかっているという方はどれくらいいるでしょうか。「冬はほとんど汗をかかないから」と言って水分を摂らない方、「かくれ脱水」になっているかもしれません。

気づかないうちに脱水になっている――この症状のことを「かくれ脱水」と呼ぶそうです。医学博士で兵庫医科大学小児科学教授の服部益治先生を委員長とする『教えて!「かくれ脱水」委員会』のサイト「かくれ脱水JOURNAL」では、「熱中症の背景に『かくれ脱水』が潜んでいる」と指摘した上で、冬場の脱水について次のように注意を促しています。

「カラダにとって快適な湿度は50~60%ですが、冬場の湿度は50%以下になることが少なくありません。外気が乾燥すると、知らない間にカラダから水分が失われやすくなります」

 では、どういう場所で「かくれ脱水」が起きているのでしょうか。まず意識すべきは室内です。「かくれ脱水JOURNAL」には、「冬の室内は屋外よりも10~20%も湿度が低下する傾向があります。したがって屋外よりも乾燥している室内の方が不感蒸泄は増えます」とあります。不感蒸泄(ふかんじょうせつ)とは、呼吸するとき呼気に含まれる水分と、皮膚から蒸発していく水分のこと。つまり、一見関係ないと軽視されがちな室内の湿度ですが、実は湿度が下がり乾燥すると、皮膚、粘膜からの蒸発、呼吸によっても、体から失われる水分が増えていくということです。

続いて、こたつや電気カーペットなど冬の必需品といえるものがさらに体から水分を奪うとのこと。まだお使いになっている方はご注意ください。

 そのほか、気にすべきところとして車の中が挙げられます。冬の車内で熱中症に苦しんだというケースもあるそうです。エアコンを使用すると車内はとても乾燥した状態になるため、特に渋滞時などでは同乗者への配慮もふくめ、「かくれ脱水」にならないよう注意することが大事です。

汗をかかなければ良いわけではない!熱中症の怖さを再確認

 では改めて、熱中症がどんなに危険かを見ていきましょう。まず、症状ですが、めまいや立ちくらみに始まり、頭痛、吐き気、さらには意識障害を引き起こします。命をおびやかすこともある怖い症状ですね。

 また、汗をかかなくなれば良いのかというと、そうではありません。「かくれ脱水JOURNAL」では、熱中症が発生することによって起こる負の連鎖について以下のように説明されていました。

「発汗で体液が失われると、水分の不足から栄養素、酸素、老廃物の出し入れが滞り、電解質の不足から障害が起こります。さらに発汗が続き、体液が失われると、カラダは体液のそれ以上の喪失にブレーキをかけるために、発汗にストップをかけます。すると発汗で体温が下げられなくなり、体温上昇で障害が起こります」

つまり、汗をかかなくなってしまうころには、危険な状態になりつつあるのです。この悪しきサイクルが熱中症のおそろしさといえるでしょう。「ちょっと暑いかな、でも我慢できる」という状態は、実はよくないのです。汗が止まったからといって安心するのは禁物ということですね。

予防に努める~水分補給と危機意識が大事~

 寒い季節の熱中症は、急激な外的要因から来るものではないので、対策をすれば防げます。まず大事なことは、水分補給。電解質を摂るようにするといいとのこと。スポーツドリンクで手軽に摂ることができますが、手近にない場合は塩を水と一緒になめるだけでも違うそうです。
 
 また、湿度に気を配ることも大事です。どうしても乾燥しがちなこの季節、加湿器を置く、また洗濯物を部屋干しするなどして、空気中の水分量を増やしましょう。これだけでもかくれ脱水を防ぐことができます。
 
 季節外れだからこそ、油断して起こる熱中症。大事になる前に危機意識を持つことが大切ですね。

<参考サイト>
・産経ニュース:冬でもかかる熱中症 まさか、●●●の中で
http://www.sankei.com/life/news/170101/lif1701010020-n1.html
・教えて!「かくれ脱水」委員会・かくれ脱水JOURNALホームページ:「かくれ脱水」って何?より(以下全て)
※脱水症予防が熱中症予防につながる
http://www.kakuredassui.jp/whatis5
※知っておくと安心。「冬のジンワリ脱水」が起こる理由
http://www.kakuredassui.jp/whatwin1
※深刻な症状につながる脱水症。症状が出る手前「かくれ脱水」の状態で対処するのがベスト
http://www.kakuredassui.jp/whatis6
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
3

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー