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DATE/ 2017.05.11

世の中に「体に良い」商品が増えた理由

 健康志向が高まる中、スーパーなどの食料品店を見回すと、「脂肪の燃焼を助けます」や「血圧が高めの方に」などの文字が躍っています。「ちょっとお腹周りが気になるな」という方は、やはりこうした食品の「機能性」が記載されていると、そちらを手に取ってしまいますよね。

 中性脂肪が気になる方のための「ノンアルコールビール」や血糖値の上昇をゆるやかにする「牛丼」など、本来、食べ物が持っている特性と真逆の効能が書かれているものもあります。

 文字だけ見ると、少し不思議な気もしますが、なぜビールや牛丼が突然身体に良くなったのでしょうか?

「機能性表示食品」と「特定保健用食品」

 こうした、食べ物の機能性を記載した商品を「機能性表示食品」といいます。一方で「特定保健用食品」という言葉もよく耳にしますよね。いわゆる「トクホ」と呼ばれる商品で、こちらは人が両手両足を伸ばしている登録マークも有名です。しかし、同じように効能が示されていのに、なぜ使われる言葉が違うのでしょうか?

 実はこのふたつ、似ているようでその定義は全く異なっているのです。最も大きな違いは、消費者庁から認可されたものが「特定保健用食品」。認可されていないものが「機能性表示食品」なのです。あの両手両足を伸ばしている登録マークは認可商品にしかついていません。対して「機能性表示食品」にはマークなどの表記の決まりはないのです。

 これだけ聞くと、「機能性表示食品」は不認可の商品と思われるかもしれません。確かに認可はありませんが、その分、商品として世に出すための根拠となる論文開示など、厳しいルールが設けられているのです。

 逆にどちらにも属していなかったものの代表として、昨今話題にのぼった「水素水」があげられます。結果的に効能はないという結論が出てしまったわけですが、健康にいいと「水素水」をうたう商品は、いずれも認可や届け出をしていませんでした。

「トクホ」ではなく「機能性表示食品」を選ぶ訳

 現在、この「機能性表示食品」と「特定保健用食品」を取り扱う市場規模は4000億近くまで膨らんでいます。何も書かれていない商品よりも、何か身体によいということが書かれている方が、顧客の手に取ってもらいやすいのです。カゴメから発売されている「トマトジュース」の事例では、同じ中身、同じ商品だけれど、一言効能を書き添えて「機能性表示食品」としてパッケージを変えたところ、出荷量が73%も増加しました。

 同じように効能を示すなら「国のお墨付き」である「トクホ」を取った方がいいように思いますが、実は「トクホ」には臨床実験が必要となり、コストも時間もかかります。その上で認可が下りる確証はありません。対して、「機能性表示食品」は国への届け出とは別に膨大な資料の制作と消費者への開示が必要ですが、臨床実験などの労力に比べれば短期間で済みます。

 このような背景から、「トクホ」ではなく「機能性表示食品」として商品を販売することが売り上げアップにつながり、その結果、牛丼やノンアルコールビールなど、必ずしも身体にいいと言えない商品にも、効能とそれを証明する論文がセットになって販売されるようになったのです。

届け出にチェックの甘さを指摘する声も……

 身体にいいものを、きちんと調査・研究した上で販売してもらえるならば、消費者としては嬉しいところですが、一方で「機能性表示食品」のチェックの甘さも指摘されています。情報開示の必要性は明記されていますが、あくまで「機能性表示食品」は各企業の責任で販売されているものです。

 例えば、使われている論文や資料そのものに欠陥がある場合や、実験結果に用いられている利用者年齢の違いを除外しているなど、不安の声もあがっているのもまた実状です。「機能性表示食品」については消費者庁や各企業のホームページなどで登録内容を見ることができますから、気になる方は調べてみてもいいかもしれません。

 とはいえ、人の健康の基礎となるのは、バランスの良い食事と適度な運動です。あくまでそれを補うための「機能性表示食品」と「特定保健用食品」なのですから、可能な範囲で、きちんとした食事と生活を心がけたいものですね。

<参考サイト>
・トクホ、機能性表示食品など保健機能食品の国内市場を調査
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/17037.html
・機能性表示食品『カゴメトマトジュース』、出荷実績が73%増
http://ascii.jp/elem/000/001/430/1430204/
消費者庁:食品表示企画
http://www.caa.go.jp/foods/
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