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食を外国に委ねるのは独立国家ではない

ニッポンの食文化が危ない(2)食料自給率を死守せよ

小泉武夫
農学博士/食文化評論者/東京農業大学名誉教授
情報・テキスト
シャルル・ド・ゴール
「飽食の時代」と言われる一方で、日本の食料自給率は低迷を続け、世界最大の食糧輸入国となっている。「これは危機的状況だ」と断言するのが、食文化評論家で農学博士の小泉武夫氏。「食の冒険家」と呼ばれる小泉氏が提案するニッポンの食文化の未来への試案とは?(全3話中第2話目)
時間:10:42
収録日:2015/08/31
追加日:2015/10/08
タグ:
≪全文≫

●日本人は食べ物を作らなくなってしまった


 皆さん、こんにちは。小泉武夫です。私は、食文化論をいろいろやっていまして、それから発酵学をやっています。それで、今本当に心配しているのは、日本人が食べ物を作らなくなったことです。

 食料自給率は今どのぐらいか。なんとカロリーベースで39パーセントから40パーセントを行き来しているのです。つまり、食べ物はこんなになくなってしまった。逆にいえば、食べ物を作らなくなってしまったということです。

 日本人の食べ物の6割が外国から入ってきている。これは怖いことなのですよ。食べ物は命の綱ですから、1回途切れたらおしまいです。これは、非常に深刻な事態としてもっと考えなければいけません。例えば今、日本に農作物をたくさん売ってくれるのは、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどのいろいろな国です。しかし、そういう国がこれからずっといつまでも食料を日本に供給してくれるかについては、なかなか難しいこともあるのです。

 それはなぜかというと、今世界的に異常気象が起こっているからです。ものすごいハリケーンや熱波、干ばつ、大雨などに見舞われ、日本にさまざまな食べ物を輸出している国自体の農産物生産量が低下し、自給率が下がっています。それを考えると、どうにかならないだろうかと思うわけです。


●高度成長下で衰退してしまった生命維持産業=農業


 そして今ひとつ、実は日本では農業が崩壊しているという重要な問題があります。日本は先進工業国に「なれ、なれ、なれ」と非常に工業に力を入れたもので、置き去りにされたわけです。これが一番大きな問題です。

 私が、農業を一番大切だというのはなぜかというと、農業こそ生命維持産業だからです。お医者さんではありません。お医者さんが人の命を助けるから生命維持産業を担っているのかというと、そうではない。そのお医者さんであっても、農家の作ったものを食べていかないと生きていけず、死んでしまいます。だから、農業こそが生命維持産業なのです。ところが日本ではそういう位置付けをせず、ひたすら高度成長でやってきたもので、農業が衰退してしまった。これが現状でしょう。それが、われわれの時代で終わればまだいいのでしょうが、次の子どもたちの時代にもこの状況を引きずって持っていくわけです。

 ところが今、外国からどんどん農作物を買うと言っても、日本は大変な赤字国家です。生まれたばかりの赤ちゃんでさえ、一人当たり870万円の借金を背負うような国が、本当に食べ物を恒久的に買えるのだろうかと考えると、食料自給率に対する不安を覚えずにはいられません。


●高齢化した農村で働こうという若者を支援する


 今ひとつの問題として、日本農業の現状を挙げました。今の日本では平均就農年齢(農家で働く人の年齢)は、専業農家の場合、何歳だと思いますか。

 これは世界一高くて、67歳です。67歳の「じっちゃん・ばっちゃん」が作っているものをわれわれがみんなで食べている。そのこと自体がおかしいから、限界集落ができたりして食べ物がなくなり、結局はみんな食べられなくなる状況を迎えようとしているのだと思います。

 日本の農業をこれからどうするのか。一番簡単なアイデアがあります。みんななぜそれをやらないかと思うほどのものです。私は先日まで国の農政審議会で委員を務めており、その案を提出しました。若い人を農家に送り込まなければ、もはや物理的に無理だろうというものです。

 これを私は「小泉試案」と呼んでいます。現在はもう大変な時期、緊急だから、「70歳近いお年寄りが作る食べ物を、自分が都会で口を開けて待っているのは耐えられない。自分はこれから農業を手伝いに行く」という、おおむね18歳から25歳までの大学生を含む全国の若者を国が支援しなければならないと思うのです。


●全国の農村に若者を送るための「小泉試案」


 そのために「小泉試案」では何をするかをこれから発表しましょう。

 まず、大学生の場合であれば、「よし、行きなさい」と言って農業の一番忙しい時期に行ってもらう。その間の授業はどうするかというと、今はノートパソコンやコンピュータの時代ですから、授業に出席できなくても、大学と交信さえできればいくらでも勉強はできる。ヨーロッパの大学では、みんな大学に行かずに教授の家で授業をやっているぐらいです。そういう具合にいくらでもできますし、何しろ非常事態なのですから、農閑期になった冬に帰ってきて大学で勉強をすればいい。

 その代わりに、彼らが農家へ行っている間の学費は全て国が負担します。行き帰りの交通費も持ちます。そして、わずかであっても1日いくらの日当を出します。

 サラリーマンの場合も同じです。例えば20歳のサ...
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