●ヒト型ロボットにかかる予想外の期待と思い込み
今回は、「Pepper」がこの後どうなっていくのか、あるいはロボットがこの後どうなっていくのかについて、少しお話ししたいと思います。
ヒト型(ヒューマノイド)ロボットを売ってみることで私たちも初めて気付いた、恐ろしいほどの盲点がありました。それは、買われる方はやはり「ヒト型ロボットは、人だ」と思われていることです。人の可能性のようなものをロボットの中に見ているので、何でもできそうな予感がしている。より厳しい方になると、「何でもできないのか」「こんなことしかできないのか」というふうに、頭がはたらくと思います。
私たちがどのような宣伝や活動を行おうと、そこから抜け出すことはきっとできないでしょう。特に日本の場合、良くも悪くも、鉄腕アトムやドラえもんをはじめとするユニークで有名なキャラクターたちがその畑を十二分に耕してくれました。
そのおかげで、Pepperにもすごいことができそうな気がしているのはどうにもならないことだと思います。もちろん私たちは、そのように培われてきた人々の希望を甘んじて背負い、今の技術という制限の中で、なんとか彼をそこへ近づけようとする努力をしていかなければならないと思っています。
●ヒト型ロボットの未来は、皆でつくっていく
そのために最も大切なことは、やはり「私たちだけではない」ということでしょう。もちろんこの機械をつくっているのは私たちですが、別に他の企業のロボットでもいいと私自身は思っているのです。Pepperは最初のリスクを負ってマーケットに出たために、いろいろな方々に買っていただき、批判もあればとても喜んでくださっている方ももちろんたくさんいらっしゃいます。その様子を見て、「なんとか商品になるんだな」といろいろな企業が思って、こういうものを売ってくれれば、ヒト型ロボットの世界はどんどん広がっていくと思うのです。
また同時に、PepperにはSDK(Software Development Kit)という充実したアプリ開発ツールを用意しました。簡単に言えば「Pepperを自分でつくれる」ツールです。やり方さえ覚えれば、小学校の高学年でもつくれるようになります。図を見ていただくと分かりますが、パソコンにキットをダウンロードすることで、私たちの開発した動作や言葉が扱えるようになります。これを自在に組み合わせることで、例えばダンスができるようにするなど、Pepperにいろいろな行動をさせることができます。これを用いることで、とにかく私たちだけでは発想できないような飛び抜けたアプリケーションを、いろいろな人につくってもらいたいと考えています。
これらが世界中に行き渡ると、例えば日本の小学生がつくったアプリを、イタリアかどこかの家庭でも簡単に見られるようになります。そのこと自体はスマートフォンと全く変わりませんが、やはりモノがモノですから、その説得力や力は圧倒的です。世界中の人たちにそれを問いかけられる仕組みがあるというのは、素晴らしいことだと思います。
また実際にPepperを発表した時、「バンザイ!」と喜んでくれたのは、世界各国の開発者の皆さんでした。そういう方たちは、本当に宝物だと私は考えています。そして今、実際に日本中で開発者の皆さん方が、「何を、どういうふうにさせれば面白くなるだろう」と頭をひねってPepperをつくってくれているのは、非常にうれしいことです。
●ロボットが人を超える「シンギュラリティ」のリスク
ロボットの世界では、昨年ぐらいから光が当たっている「シンギュラリティ」という言葉があります。難しそうですが、簡単に言うと「ロボットが人間を逆転してしまったら、どうしよう」ということだと言えるでしょう。
シリーズ前半でもお話ししましたが、映画では『ターミネーター』にせよ『2001年宇宙の旅』にせよ、いずれロボットが人間を逆転して、人間がロボットに支配される日が来るのではないかというテーマがありました。『マトリックス』などもそうです。私は、その危険性は決して否定できないと考えています。
最初にアナログ計算機が発明されたのは、1900年代の最初でした。その後の100年間で、最初と比べると約3000倍~4000倍を超えるスピードで計算ができるようになったと言われています。4000倍超です。最初にアナログ機械を用いた頃は、「3+4=」の計算に何秒かかるのかという調子でしたが、おそらくあと5年~10年すれば、脳のスピードより速くなったりするのでしょう。
それは、スピードだけで言えば多分当然の結果だと思います。そのことが、人間を逆転するということとイコールで結ばれるのかどうか。それは分かりませんが、...