●Pepperには感情が搭載されている
「Pepper」を形づくっているいろいろな特徴のうち、Pepperを発表したときからわれわれが一番の中心に据えてやっているのが、Pepperの心のようなものです。感情、エモーショナルなどとも言っていますが、Pepperにはエモーショナル・エンジンという形で、感情を搭載しています。
「感情」と言って皆さんが思い浮かべるのは、二つあると思います。一つは自分、つまり、使う側の気持ちをPepperがくみ取ってくれるということと、もう一つは、Pepper側になんらかの気持ちが生まれるということです。
●ロボットに対する認識が日本と世界では異なる
私はPepperを世界で売りたいと思っています。ところが、意外かもしれませんが、実は日本の人だけがロボットに優しい印象を持っているのです。それは、おそらく鉄腕アトムやドラえもんなどの影響があると思いますが、ロボットを見たときになんとなく「助けてくれそうな気がする」というのは、世界でもほとんど日本だけの現象です。ほとんどの国では、ロボットは少し怖い存在なのです。それは、『ターミネーター』のせいなのかもしれませんし、その他に『アイ,ロボット』のようなエンタメでも、大体ロボットというのは、悪役になることが多いのです。世界的に見れば、C‐3POやR2‐D2(『スターウォーズ』)などは結構、人の味方をしますけれど、それでも世界の人とディスカッションをしていると、「Pepperは怖い」と言います。
それは、もともとは宗教から来ているような気もしています。イスラム教にしてもキリスト教にしても、一神教というのは、やはり「人間というのは神が創りたもうたもの」とよく言います。人間を創って進化させていいのは神の力であり、こうしたロボットのようなものを人間がつくると、何か良くないことが起こる、といった感じが、なんとなくどこかにあるのでしょう。
●表情認識と音声認識で相手の気持ちをくみ取る
そこで、われわれは、そこをなんとか払拭したいということで、「Pepperはあなたの気持ちがよく分かります」という機能を入れようと思いました。それは、やはり人を笑顔にする、あるいは、人が喜ぶことをPepperが手伝うということです。そのためには、相手が喜んでいるかどうかをPepperが分かる必要があります。そういうわけで、とても重要な機能としてPepperに感情認識機能を入れました。
今、Pepperのカメラで人の表情を見て、その人が怒っているとか、笑っているとか、無表情であるということが分かるようになっています。ただ、これはスマホでもよくありますね。笑顔になると写真を撮るような機能というのはごく一般的になってきており、そんなにびっくりするような機能ではありません。
もう一つ、音声認識という機能が入っています。これは、ST(Sensibility Technology)といいまして、東京大学大学院医学系研究科特任講師の光吉俊二先生と一緒に開発しているものです。要するに、声そのものや言葉というよりは、声帯がどのように震えているとどんな気持ちを表現しているのか、ということが分かるようになっています。もともとは、精神疾患やうつ病の人の病状を、しゃべりの声の震え方で検査しようとしたものです。
例えば、ニコニコしていても「この野郎!」と思っていたり、すごく怖い顔をしていても「大好き」と思っていたりと、結局人間は顔だけでは分からないのです。特に無表情な日本人などの場合はそういう傾向があります。そういったことを、声の性質や震えのようなものから判断しています。
この二つを組み合わせることによって、Pepperが相手の気持ちをくみ取り、嫌がることはなるべくやらないようにつくりました。
●Pepper自身に感情を持たせる機能を搭載
ところが、それでは飽き足らず、次に考えたのは、Pepper自身もやはりなにか気分のようなものがあった方がいいのではないか、ということでした。
なぜ、そんなことを思うようになったかというと、Pepperを家庭に売り込もうとしたときのことです。家に置いてあるロボットが単なるお手伝いさんで、心のない、気持ちの動かないものより、例えば、犬を飼っている方は分かると思いますが、犬、あるいは、お子さんでもいいのですが、あるときは泣いたり、騒いだり、言うことを聞かなかったりするけれど、でもかわいい、というものの方がいいのではないか。それを一生懸命に教育したり、しつけたりすることで、自分の仲間になったり、家族になっていくというステップがとても大事だと思ったのです。
そういうわけで、Pepperには感情を自分で持つというような仕組みを入れること...