●安倍首相の周到な準備が目立った伊勢志摩サミット
伊勢志摩サミットが終わりまして、この評価をどうするかということが話題になっています。少し古い話から申し上げますと、第一回のランブイエ・サミットは、ジスカール・デスタン仏大統領の頃ですが、1975年に行われました。オイルショックの後で、世界経済をどう建て直すかが課題で、日本からは三木武夫首相が参加しました。その時たまたま、私は竹下登さんとある会合で同席したのですが、竹下さんが「日本の政治家はいつかこのような場所に出ていく準備をしておかなければいけなくなったんだね」としみじみ言ったことを思い出します。
当時は、円高と円安の意味がよく分からない政治家がいました。特に円高で円表記の数字が小さくなっていくと、「どうしてそれが円高なのか。小さくなっているじゃないか」というような反論があったりする、そういう時代でした。それに比べると今回の伊勢志摩サミットで、安倍晋三首相はかなり周到に準備をして、根回しをしたのです。そういう意味でいうと、日本もサミットに慣れてきたということになります。
●日本とG7各国首脳の経済認識のズレが明らかに
ただ、安倍さんが持っている国際経済に対する認識とG7の首脳が持っている認識は、必ずしも一致していなかったと思います。今回のサミットは、久しぶりに世界経済を論ずる場所であったわけですけれども、そこで考え方の違いが明らかになりました。特にドイツのアンゲラ・メルケル首相、あるいはイギリスのデーヴィッド・キャメロン首相などが、安倍さんが世界経済の下振れリスクに対する財政出動を主張したことについて、むしろそれを否定するというか、考え方の相違も明確になったサミットではないかと思います。「景気が悪い時には財政出動なんだ」という説に対して、「日本は財政出動できる状態なのか」と口には出しませんが、これだけの財政赤字を抱え込んでいる日本が、事あるごとに「財政出動」ということを唱えることの矛盾、滑稽さを思った首脳がいたのではないかと思います。
もう一つは、「リーマンショックのような危機」ということを安倍さんが主張したことです。何のために主張したかというと、リーマンショック並みの危機というのは、消費税増税の再延期と結び付くからです。ただし、その時に出した資料は、コモディティの下落傾向であって、リーマンショック前と今とでは経済状況は違っています。
確かに、世界経済における資源国、特に中国の下方リスクはあります。しかし、原油も若干下げ止まっており、その点では緊急の危機を考えなければいけないわけではありません。ましてや、リーマンショックの直前に行われた洞爺湖サミット(2008年)の話も出ていますが、これまた福田康夫首相に対して大変失礼な話です。洞爺湖サミットが失敗したことと、リーマンショックが起こったことは結び付かないからです。
●G7の重要課題は経済リスクより政治リスク
安倍さんは一言も発しなかったのですが、今回のサミットは経済危機、あるいは経済の下方圧力、下方リスクよりも政治リスクの方がはるかに高かったわけです。G7でそのようなことを主張することはできないのですが、G7それぞれの国が抱えている政治問題があり、例えばイギリスのEU離脱に関する国民投票は、これまた結構大きい問題です。アメリカの大統領選挙では、ドナルド・トランプ氏が勝ってしまう可能性もあり、そうした危険性があるわけです。フランスはフランソワ・オランド氏、ニコラ・サルコジ氏、マリーヌ・ル・ペン氏の3つのグループがそれぞれ候補者を立てて争っていて、政治的状況はかなり難しいという状態です。ドイツでさえ、難民問題を抱えていて、今までの経済的状況が良かったということだけでは、どうも済まないという難しさがあるわけです。
●「政治リスク」と考えるべき消費税増税の延期
そのような中で、日本の安倍首相は、議席数が多く内閣支持率も高く、ほぼ万全ではないかと言われていますが、それでも政治的には消費税増税を再延期せざるを得ないのです。これは「政治的リスク」以外の何ものでもなく、安倍さんが「政治リスク」と思わないだけなのです。つまり、こういうことです。「経済はいい」と言い続けている。けれども、消費税の増税はできない。では一体いつできるのか、という難問に答えることができないわけです。若干の景気の停滞という短期の話を持ち出して、長期の財政赤字という問題に対して答えられないというのは、「政治リスク」といっていいのだろうと思います。
安倍さんがサミットで経済危機について主張し、その直後に「消費税増税を延期します」ということを述べたのですが、これまた報道のピントが少しずれています。今、白紙の状態で消費税増税をする...