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天皇陛下のおことば~ご譲位について考える
「全身全霊」で悲しみに向き合う、という天皇陛下の生き様
天皇陛下のおことば~ご譲位について考える(3)私たち国民が考えるべき時
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
天皇陛下は8月8日、「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」の中で「全身全霊」という表現をお使いになられたが、これは大変に重いおことばであると、歴史学者で皇室制度に関する有識者ヒアリングのメンバーでもある山内昌之氏はいう。私たち日本人は、日々違う「悲しみ」に向かい合うという過酷な旅、そのご負担を、ご高齢の天皇陛下に強いてきたことになる。天皇のおことばが表明された今こそ、敬愛する天皇皇后両陛下に対し、私たちに何ができるか、真摯に考えるべき時である。(全3話中第3話)
時間:11分35秒
収録日:2016年8月9日
追加日:2016年8月12日
収録日:2016年8月9日
追加日:2016年8月12日
カテゴリー:
≪全文≫
●「全身全霊」という表現の意味
皆さん、こんにちは。今回も前回に引き続き、8月8日の天皇のおことばについて、私が感じたことを述べていきたいと思います。
天皇陛下は、昨年の誕生日で82歳になられました。その記者会見の席上で、天皇陛下は象徴としての任務や義務を果たしていく中で、「老い」、つまり年をお取りになられたことを率直に触れられ、そういった義務や責任を全うできるかどうかについてのお考えにつながるおことばを述べられたことがあります。
今回のおことばの中で、「全身全霊を込めて」という表現を使われましたが、これは大変なおことばです。私たちの言葉でいえば、「心を込めて全てに接しておられる」ということを意味します。もっと下世話な言葉でいえば、「手抜きをする」あるいは「力を塩梅する」といったことはしない、こうしたことを、「全身全霊」というおことばは意味しています。
身体障害者(ハンディ・キャップのある人)、自然災害や気候変動などによる被災者・被害者の方たちなど、現に今弱い立場にある幅広い人たちに接するとき、「全身全霊」で、そして「御心」を込めて接することができるかできないか。そのことを心配されていたことに、私たちは等しく感動し、感銘を受けました。
高齢になったから休みたい、あるいは楽に隠居したい、あるいは少しでも体が楽になるような生活がしたい、といった私たちのような市井の人間、あるいは市民ならば普通に持つ感情とは別の次元で、天皇陛下はご自分の生活や義務について考えておられます。
心を込めて全身全霊で人々に接することができず、ご自分のお仕事ができなくなるのは、象徴としての国事行為の執行や国際親善活動などのご公務、あるいは様々な理由で弱い立場にある国民への労り、ひいては戦争犠牲者の追悼や鎮魂のお仕事をする上で、相手や関係者に対して失礼になるのではないか、非礼になるのではないか、そういう危惧が込められたおことばだったのではないかと、お見受けします。
●それぞれの「悲しみ」に向き合う天皇
「心を込めて」といってお見舞いなどをされる場合、あるいはサイパンやパラオ、そして今年のフィリピンなどにおいて、戦争で亡くなった人々や現地で戦争に巻き込まれ亡くなった方々を鎮魂し追悼するという場合、あるいは被災地において様々な被災者にお見舞いするという場合、天皇...
●「全身全霊」という表現の意味
皆さん、こんにちは。今回も前回に引き続き、8月8日の天皇のおことばについて、私が感じたことを述べていきたいと思います。
天皇陛下は、昨年の誕生日で82歳になられました。その記者会見の席上で、天皇陛下は象徴としての任務や義務を果たしていく中で、「老い」、つまり年をお取りになられたことを率直に触れられ、そういった義務や責任を全うできるかどうかについてのお考えにつながるおことばを述べられたことがあります。
今回のおことばの中で、「全身全霊を込めて」という表現を使われましたが、これは大変なおことばです。私たちの言葉でいえば、「心を込めて全てに接しておられる」ということを意味します。もっと下世話な言葉でいえば、「手抜きをする」あるいは「力を塩梅する」といったことはしない、こうしたことを、「全身全霊」というおことばは意味しています。
身体障害者(ハンディ・キャップのある人)、自然災害や気候変動などによる被災者・被害者の方たちなど、現に今弱い立場にある幅広い人たちに接するとき、「全身全霊」で、そして「御心」を込めて接することができるかできないか。そのことを心配されていたことに、私たちは等しく感動し、感銘を受けました。
高齢になったから休みたい、あるいは楽に隠居したい、あるいは少しでも体が楽になるような生活がしたい、といった私たちのような市井の人間、あるいは市民ならば普通に持つ感情とは別の次元で、天皇陛下はご自分の生活や義務について考えておられます。
心を込めて全身全霊で人々に接することができず、ご自分のお仕事ができなくなるのは、象徴としての国事行為の執行や国際親善活動などのご公務、あるいは様々な理由で弱い立場にある国民への労り、ひいては戦争犠牲者の追悼や鎮魂のお仕事をする上で、相手や関係者に対して失礼になるのではないか、非礼になるのではないか、そういう危惧が込められたおことばだったのではないかと、お見受けします。
●それぞれの「悲しみ」に向き合う天皇
「心を込めて」といってお見舞いなどをされる場合、あるいはサイパンやパラオ、そして今年のフィリピンなどにおいて、戦争で亡くなった人々や現地で戦争に巻き込まれ亡くなった方々を鎮魂し追悼するという場合、あるいは被災地において様々な被災者にお見舞いするという場合、天皇...
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