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生前退位の問題は摂政を置くことでは解決しない

天皇陛下のおことば~ご譲位について考える(1)天皇の「老い」と「終焉」

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
皇居
2016年8月8日、象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことばが公表された。歴史学者で皇室制度に関する有識者ヒアリングのメンバーでもある山内昌之氏が、そのおことばのポイントが何であり、それを私たち日本国民はどう受け止めるべきなのかを解説する。今回のメッセージで特徴的だったのは、在世中の譲位を言外に含めつつ、「天皇の終焉」や「老い」による公務の難しさに触れたことだった。(全3話中第1話)
時間:11:28
収録日:2016/08/09
追加日:2016/08/12
タグ:
≪全文≫

●8月8日のビデオメッセージ


 皆さん、こんにちは。皆さんもご存知のように、2016(平成28)年8月8日月曜日の午後3時に、今上天皇、すなわち現在の天皇陛下は、今の心の内をビデオメッセージとして、国民に対し広くお語りになりました。天皇陛下のこのおことばは、平成という時代を次の時代へと区切り、そして次の時代へと継承することになるような、大きな節目になるおことばではなかったかと思います。そしてそこでは、将来のご退位、あるいはご譲位に関わる可能性を含むおことばも、事実上含まれていたかのように思われます。

 今上天皇の28年間にわたるご在位の間のご苦労について、ほとんどの国民が実感をもって理解あるいは共感できるようなお気持ちの表明ではなかったかと私には思われます。天皇陛下は、憲法に規定された象徴としてのお立場を忘れずに、「個人的に」という限定の下で、人間天皇の心の内面を、個人として率直にお語りになりました。私はこのおことばを伺っていて、2011(平成23)年の東北地方・太平洋沖大震災の折のビデオメッセージ以来の感動・感銘を受け、かつ緊張感を覚えました。


●「象徴としての天皇」の到達点


 象徴天皇の地位に関わるご発言には、大変重いものがありました。天皇陛下が仰ったのは次のことです。まず個人として、二度の外科手術を経験し、加えて高齢化によって体力の低下を覚えるようになったということについて、率直に言及されました。そして「齢80を超え、健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時」という表現を使い、これまでのように、全身全霊をもって象徴天皇のお務めを果たしていくことが難しいのではないかということを、国民に向かって語られたのです。

 さらに天皇陛下は、これまで国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきたと同時に、国民の悲しみの時も、あるいは喜びの時も共に過ごしてきたというおことばを私たちに与えてくださいました。天皇の、象徴としてのこうしたご活動やご努力は、とりわけ日本各地、特に遠隔の地や島々への旅も、ご自身にとっては天皇の象徴的行為として大事であり、大切なものだとお感じになったがゆえのものです。皇后陛下とご一緒に、「象徴天皇とは何か」、「象徴としての行為をいかにすべきか」ということを、日々重ねられるようにして経験され、そして実践してこられました。

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