●フィクションに頼らず、台湾との友好関係を築け
台湾は、随分変わってきたと思います。根拠として非常に重要なのは、1980年代から90年代の前半に起こった民主化です。ちょうどその時に、中国で天安門事件があり、「ああ、中国はああいう国なんだ」という印象を与えてしまいました。今になってみると、この組み合わせは非常に重要で、アメリカの対中政策は、見方によっては対台湾政策です。日本も、対中政策は一部が対台湾政策なのです。台湾に対する見方は、1990年代に微妙に変わっていった気がします。
独立した台湾に対し、中国が武力介入してこの地域が不安定化することは誰も望みません。台湾の人も世論調査を見る限り、決してそこまでは期待していません。しかし、一国二制度にもならない。「一つの中国」というのは一種のフィクションで、事実レベルでは、一つの中国と一つの台湾という事態が、次第次第に進行していくという流れが穏当なところではないかという気がします。その意味で日本政府も、このフィクションを公然と否定する必要はないと思います。そして、そういう頭で台湾を重視する必要があるだろうと思います。
蔡英文という方は、やはりとても頭が良いのでしょう。非常にバランスが取れているという印象がありますし、ものすごく安定感があります。中国はかなり厳しい態度を取っていますが、それをやればやるほど大人げないという評価になるのではないかという気はします。
●日韓共同宣言以降、国内政治に振り回される日韓関係
韓国については、今になって見ると、安倍晋三総理は随分辛抱し、昨年の12月に慰安婦問題に関する日韓合意までよく持っていったと思います。ですが、今の韓国における国内政治の動向を見ていると、来年行われる次期大統領選挙で、野党から誰かが出てくる可能性は十分あります。その時に、大きく振り子が(反対に)振れると、「あんな合意は知らん」ということになる可能性も十分あります。あまり言いませんが、実情は難しいですね。
この間も、コトラ(大韓貿易投資振興公社)の方が来られて、「ジェトロとコトラの協議は5年間停止していました」と言っていました。「やっとまたこうやって少し活動できるようになりました」って言っていました。そういう実務のレベルでは随分苦労されているのだと思います。一番の政務のレベルでこれだけ振幅が激しいと、「合意ができたからこれでやりましょう」ということにはどうしてもなりません。向こうがそのたびごとにちゃぶ台返しをすると、こちらでもそもそも反対している人が「どうせ向こうはまたちゃぶ台を返すから、(合意は)やるな」ということになります。
1998年の金大中大統領と小渕恵三さんによる日韓共同宣言以降は、その繰り返しです。あれ以来、その時その時でいろいろと努力はしても結局、国内政治に振り回されています。ここから先は、言えば言うほど韓国の人に反発されるのですが、やはりもう少し成熟してもらうしかないのではないか、という気はしています。
韓国の人たちにも、そんなに悪気はないと思います。「悪気はない」というのは、純粋にそう思って反応しているだけということです。中国と違い、そんなに戦略的計算があってやっている感じはしません。ですが、それが逆に難しいのです。中国の方が計算しているでしょうから、そうなると、ある意味たちは悪いのですが、計算しているということは、(逆に)その計算が読めるという面もあるということです。
●外国籍を取得する香港チャイニーズ
ここのところ、1980年代半ば以降のおよそ30年間の香港とシンガポールを、ペアで捉えるとどのように見えるかということを少し考え始めています。1990年前後には、中国が一国二制度で香港を取り戻して、香港は中国化するかと思ったら、逆に広東省が香港化しましたといった議論が、多分20年ほど前にはあったかと思います。しかしそれは一過性のもので、30年間ぐらいのスパンを取ってもう一度振り返ってみると、やはり香港はどんどん中国化しています。そして、それに対する一種の反発や懸念が、香港の、特に若い世代の中から出てきているのです。
これが今後、どういう形で大きくなってくるのかは分かりませんが、私が持っている率直な印象は次のようなものです。正確な数字は覚えていませんが、ある額のお金を投資し、そして一定の条件を満たせば、例えばカナダでは国籍を取得できます。実際、香港のチャイニーズたちは、随分とカナダなどの国籍を持っており、そうやって外国人として香港に戻ってビジネスをするのです。富裕層はもちろん、中産階級のかなり上の方のプロフェッショナルな人でも、そういう人が増えています。
それは私のいうアングロチャイニーズのことですが、この趨勢は、今後ますます大きくなるのではないでし...