中国近代化の真実~科挙と日清戦争
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
小国・日本に破れた屈辱が日中関係を複雑にした
中国近代化の真実~科挙と日清戦争(2)日清戦争の爪痕
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
日清戦争が中国に与えた衝撃と屈辱は想像を絶すると島田晴雄氏は指摘する。中国の文化に憧れ抜いた「属国」の裏切りを意味するからだ。その爪痕は中国の近代化に影を落としたのか、それとも動力源となったのか。(後編)
時間:7分45秒
収録日:2014年3月4日
追加日:2014年5月8日
≪全文≫

●中国に憧れ続けた日本は中国の一部


日本は、その中国の文化圏の中で育まれてきた国のはずなのです。まず、大宝律令は、中国渡来の仏教に憧れた聖徳太子が取り入れたシステムでした。そして、遣隋使や遣唐使を派遣していくようになり、空海や最澄が乗り込みます。荒海を小舟で渡るので、恐らく10人中8、9人は死んでいると思います。上海に上陸した後も、盗賊や野獣がいる中を1000キロも1200キロも歩いて長安に上る。そして修行して高僧のトップに立つ。いかに中国に対する憧れが日本人に強かったかの現れで、とても「命を懸けて」などという言葉では表しきれない。そこまでして、なんとか中国のシステムを導入して帰り、中世の体制をつくっていくわけです。
だから、中国側から見た日本は完全に中国文化圏に属しています。私なども中国語を勉強しているから、「お前、中国人だよ」と言われてしまうかもしれない。この場合、国境は関係ないのですから。そういう文化構造を持つ国は、他にはありません。

●日清戦争は中国に科挙の廃止と西洋化の遅れをもたらした


その国が日清戦争で、属国と見なしていた日本に敗れたことは、中国人は口が裂けても言いたくない。日清戦争があったのは1894年ですが1895年には敗れて、相当なショックを受ける。それから10年経って何が起きたかというと、隋の時代から1300年間、中国のエリートを形成してきた「科挙」制度が、1904年に廃止になります。つまり、天子の前で詩文を奏上したり、国民から集めた税金を歳出にまわさないのが仕事で、近代的な軍隊さえ作れていない「政治エリート」の存在は、日本と戦うのに何の役にも立たなかった。属国にやられてしまったではないかということだったと思います。
その迷いがあまりに深かったため、西洋の文明を中国に入れるチャンスを逸しています。中国は漢字優先ですから、どんなものでも一旦漢字に訳す手間がかかります。例えばゴルフ。日本人はカタカナでゴルフと言いますが、中国では漢字を当てはめて「高爾夫球」と書いて「ゴオルフ」。タクシーのことは「出租汽車」でチューチューチーチャーというのです。そんなの咄嗟に言いにくいではないですか。
つまり、中国には外来文明が気軽に入らない。日本はアジア諸国に比べると百年早く産業革命を始めたと言われていますが、中国の産業革命は第2次大戦後です。

●明治...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
最初の日本列島人~3万年前の航海(1)日本への移住 3つのルート
最初の日本列島人はいつ、どうやって日本に渡ってきたのか
海部陽介
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之

人気の講義ランキングTOP10
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓