●ロシアがこぞってトランプ大統領就任を歓迎する理由
皆さん、こんにちは。ドナルド・トランプ新大統領の挙動が、世界においても、また日本においてもしばしば話題になっております。しかしながら、大変奇妙なことですが、トランプ大統領の就任を喜んだ国が少数ながらあります。それはまずロシアで、もう一つはイスラエルです。ロシアにおいては、エリートや指導者たち、また一般大衆、市民たちもどちらかというと、こぞって歓迎しています。
この両者、すなわちロシアの指導者と市民たちがトランプ大統領を歓迎するのは、アメリカのメディアがしばしば語っているように、「トランプがクレムリンの手先である」とか、あるいは「ロシアのハッカーである」などということではありません。そうしたことではなく、米露関係の新しい方向が、ロシアによれば、国際的な対立の緩和、あるいはロシア国内の対立の雪解け、こうしたことに貢献するということが期待されているからです。また同時に、トランプ大統領の就任が、ロシアとロシア人の自己利益にかなうと信じているからです。
●歴史的国際秩序の転換にその根拠を問い続けるロシア
ウラジーミル・プーチン大統領やその政権には、かつて私が幾度となく述べてきたように、歴史の大きなエポックを機会としてロシアが不公平な扱いを受けているという認識が強くあります。それは、社会主義陣営の崩壊と1991年のソ連崩壊が正義にもとるということだけではありません。それだけではなく、歴史と政治の正当性を持たないその崩壊が何かによって正当化された、あるいはある真理と正義によって正当性が証明されたとは、彼らは考えていないということです。
第二次大戦後の秩序は、第二次世界大戦末期に行われたヤルタ会議でつくられました。こうした秩序を置き換えたのが冷戦終結とソ連解体であったわけですが、こうした大きな国際秩序を置き換える根拠はいったいどこにあったのか。そして、ソ連が解体した後、アメリカが一極支配を強めていった根拠はどこにあるのか。さらに、ロシアは二流の政治的影響力、場合によっては三流の経済的な影響力にひとたび転落していったその根拠とは何か。それを正当化するものは何か。そうしたことについての国際的な文書、あるいは国際的な機構というものはつくられなかったではないか。すなわち、プーチン大統領をはじめとするロシアの指導部の目には、アメリカだけを唯一の超大国とし、アメリカだけが国際的な意思をつくっていくというように考えることの根拠を問うているわけです。
つまり、そうした義務はロシアにはない、そのようには考えない。また、アメリカにそうした義務を与えた根拠というもの(があるなら、それに)どの国もサインをしたわけではないし、どの国も協定や取り決めを結んだわけではない、というのが、ロシアの言い分に他ならないのです。
したがって、冷戦終結とソ連の解体以降、プーチン大統領の考えでは、本来ならば誰もがそうしたことに対して、ロシアはアメリカの指導性に従うべきではなかったということが、彼らの中におのずからあるのです。ですから、EUや日本のようにアメリカの指導性をあらかじめ前提とし、それを受け入れるというような立場とは、そもそも全く出発点が違うと見なければなりません。
●トランプ、プーチンに共通する世界観-新しいヤルタ
プーチン大統領の論理は、明らかにウクライナとシリアをめぐるこれまでの対立の背景と根拠を説明しています。ウクライナとシリアは、まさにロシアにとってレッドラインそのものであり、そして、しかもそれは受け身の立場で考えているのではなく、ウクライナとシリアを一つの大きなモメントと捉えています。つまりロシアが優位性を持ちアメリカと対抗できる新世界秩序の必要性があり、その成立に向けた問題が今、生じているということを証明するのが、ウクライナとシリアにおけるロシアの存在感の大きさだと考えているのです。
ロシアの外交分析者、アナリストたちがこれまで幾度となく主張してきたことですが、それは、新しいアメリカの大統領、すなわちトランプ大統領はヤルタ協定、ヤルタ体制の崩壊後、なし崩し的につくられた現在のアメリカの一極モデルを、ロシアを含めた新しい国際関係のシステムの創出に置き換えることに前向きであり、そうした交渉をするだろうということです。「プーチンを尊敬している」とか、あるいは「プーチンとは話ができる」「ロシアは反テロ国家として重視されてしかるべきだ」と考えるトランプ大統領の言葉を、言い換えるならば、実はロシアをアメリカとともに国際秩序の大きなパートナーとして認めるということを意味しているわけです。
「アメリカファースト」を唱えるトランプ大統領が、ロシアのプーチン大統領に対してかくも遠慮する、...