●今の教育や人事考課では10年先の人材はつくれない
教育も企業の人材育成も、この10年、20年の間ずっと、「高度成長期とはもう違うのだから、変わらなければいけない」と言われ続けてきました。ただ、今までとは違って、この数年の間にAIなどの発達によって、実際に私たちが想像できないようなスピードで社会が変わりつつあります。
今までは、何となくこのままではいけないだろうと思いながら、10年、20年とやり過ごしてきたのですが、今後は、実際に想像もできないような世界になっていくと考えられます。それは20年後かもしれませんし、もっと早く、10年後かもしれません。したがって、今の教育や企業の人事考課あるいは人材育成が、そうした10年先の人材をつくっているのか。そういったところが本当に大きな問題となります。
●旧来の減点主義の人事考課では人材は育たない
そこで、私たちの学校では3つの力を大事にしています。1つ目が「問いを立てる力」です。自分はそもそも、何に突き動かされるのか、自分に何が必要なのだろうか、という問いです。この問いが、隣の人は何に困っているのか、このコミュニティーには何が必要なのか、という他人への問い掛けと、ぴたっと合った瞬間に、大きな山が動き始めるのです。まずは周りではなく自分に問い掛けてみる。そして、すぐ隣の人、次にコミュニティーに問い掛けていく、ということが非常に大事です。例えば、企業の中でも、周りの人が何を要求しているか、上司は自分をどう評価するだろうか、ということではなく、まず、今自分はどこにいたら一番わくわく、ぞくぞくするだろうか、あるいは市場は実際には何を要求しているのだろうか、という問いに真摯に耳を傾けていくことが大切なのです。
ただ、企業に入ったときに、それが評価されているのか、ということは大きなポイントだと思います。最近、企業の方とお話させていただくと、トップの方は「リスクを取ることは構わない。失敗しても良いんだ」と、メッセージとしてはおっしゃいます。しかし、現場での人事考課は、やはり減点主義のままで、失敗したら左遷させられるという旧来の人事考課が続いている場合が多いのです。そうなると、なかなか人材は育ちません。本当にリスクを取り、本当に新しいことを生み出す人は育ってこないのです。
●現代社会では、目に見えにくい価値観のぶつかり合いがある
私たちの学校で大切にしている2つ目の力は、「多様性に対する寛容力」です。これもまた、現代では本当に重要な力です。おそらく日本企業の中で多様性といえば、ジェンダーや国籍という、非常に分かりやすく、表層的なところが注目されるでしょう。もちろん、それらにはまだ多くの課題が残っていますが、実際に社会の中で起こっていることを見てみると、例えば、BREXITにしても米国の大統領選にしても、国籍やジェンダーだけの問題ではありません。同じ人種、同じ国籍、同じジェンダーであっても、持てる人と持てない人や、職業観の差といった、もっと見えにくいもののぶつかり合いが問題になっています。最近の価値観のぶつかり合いは、これに基づくものです。
したがって、表層的な違いではなく、本当に根本的な次元に立ち返って考える必要があります。自分の当たり前が当たり前ではない人に対峙したときに、それを攻撃したり排除するのではなく、この人はどうしてこんなことを考えるようになったのだろう、なぜこの人はこのように感じているのだろう、と思えるかどうかが非常に大事になってきます。
●もっと多様な人材を受け入れないと現状は変わらない
こうした考え方に基づいて、私たちの学校では、奨学金を潤沢に給付することによって、国籍の違いだけではなく、さまざまなバックヤードで育ってきた子どもに来てもらっています。日本の場合、やはり企業の中では、どうしても同質的な人、同じようなバックグランドの人を集める傾向がいまだに強いと思います。しかし、それが根本的に変わっていかないと、イノベーションは起こりません。
そもそも、現実は多様な価値観が渦巻く社会になっているのに、そうした変化に十分に対応することができないでいます。ですから、特に入り口の段階で、自分たちとは違う考え方や、違った風をもたらしてくれる人を、もっと多様に、もっと進んで受け入れる体質にならないと、現状はなかなか変わってはいかないでしょう。
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