●データと学習プロセスは、先生の頭の中だけで完結している
ビッグデータを用いたビジネスチャンスは、今後多様な形で登場するでしょう。私が最近目にして、面白い、発展性があると思っているのは、教育分野です。教育はITやIoT(モノのインターネット)、AIによってかなり大きく変わろうとしています。特に重要なパーツになるのは、ビッグデータを活用した教育の革新・改善です。
どのように教えれば子どもが分かるようになるか、子どものつまずきをどのように解消できるかといったことは、伝統的には、各先生の経験に基いて培われてきました。ベテランの先生は、子どもがつまずくところをよく分かっているため、適切な教え方ができます。間違ったり、悩んでいる子どもがいれば、適切なアドバイスをすることができるということです。こうしたことは、ベテランの先生の長年の経験に基づくものです。長年の経験、言い換えれば、その先生の頭の中にたまってきたデータに基づいて、教え方を工夫しているのです。非常にプリミティブな形ですが、データに基づいて、個々の先生が教え方を工夫し、その中で教え方がうまい先生は良い先生だと評価されてきました。
つまり、データと学習のプロセスは、先生の頭の中だけで完結しており、かなり属人的にデータが処理されてきたのです。もちろん、先生同士で教え方についてディスカッションをしたり、先輩教の先生が後輩の先生に教え方をアドバイスすることもあるでしょう。それにしても、教え方は属人的なものでした。この意味で、情報やデータはもったいない使われ方をしています。つまり、他の先生のところで蓄積されたデータを、十分活用できていないということです。これは今までの教え方の技術における限界です。
●タブレットを用いて、きめの細かい教育ができる
ところが、こうした状況がコンピュータの発達によって、かなり大きく変わろうとしています。今では、タブレットにアプリを入れて、アプリを通じて子どもに学習させるという仕組みが、随分普及しています。子どもたちは一人一人、自分のタブレットのカリキュラムに基づいて、学習することができます。こうした取り組みが非常に注目されています。
タブレットを使えば、面白く学べるので、やる気が出ます。また、タブレットを使って、一人一人に応じたカリキュラムを組むことができます。例えば、1番と2番の問題をクリアできた人は、3番目に進めばいいし、できなかった人はその解説をよく見て、そのまま3番目に進むのではなく、1番、2番の問題とは多少違う問題をもう一度解いてみる、といったことが可能です。このようにして、タブレットを用いて、きめの細かい教育ができるようになります。
●学習プロセス自体がビッグデータになる
こうしたことが通常、よく宣伝されています。しかし私が注目しているのは、タブレットで子どもが学習するプロセスを通じて、学習プロセス自体がビッグデータになる、ということです。つまり、一人一人の子どもがどのようにして問題を解いたのかということを、タブレットを通じて、教育機関が情報として得ることができるのです。もちろん、個人情報の問題はあるでしょうから、個人を特定できないような形で情報を集めます。
例えば、1番の問題につまずいた人は、どんな教え方のスライドを見ればよく分かるのか、どんな問題を次に解かせれば、1番の問題がよく分かり、ちゃんと学習ができるのか。1番ができなかった子どもに、タブレットを用いて、いろいろなスライドの教え方をさせてみると、このパターンのスライドで教えた子どもは理解が遅いが、別のパターンのスライドで教えた子どもは理解が非常に早かった、というような情報がデータとして集まってきます。
これまでは先生の頭の中の経験値としてしか集まらなかった、どのように教えれば子どもが分かるようになるのかというデータを、たくさん集めることができるのです。タブレットが普及して、そのアプリを使う人が増えれば増えるほど、そうしたデータがたくさん集まります。そうすると、どのようなパターンの子どもには、どのような教え方がいいのかが、分かるようになります。同じように3番目の問題を間違えた子どもであっても、1番、2番をスムーズに解けたのか、1番、2番でつまずいたのかで、教え方を変えた方がいいかもしれません。こうしたきめの細かい教え方ができるようになります。
●ビッグデータによって、テキストやアプリの作り方も改善される
個々の先生の長年の経験と勘に頼っていた、学習の仕方の改善が、ビッグデータを通じて可能になります。いろんな生徒が実際に学習していくプロセスを集めて、データ化することによって、より良い形の教え方ができるようになるのです。こうしたデータを用いた教え方の改善は、システ...