歴史家が語る『裕次郎』
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裕次郎映画に描かれる時代背景がリアルな共感を生んだ
歴史家が語る『裕次郎』(3)裕次郎映画とその時代背景
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
「古代ローマ史の泰斗が『同時代史』を描いた」と話題になっているのが、『裕次郎』(講談社)。2017年7月に発刊された早稲田大学国際教養学部特任教授の本村凌二氏の近刊である。今回は、著作で取り上げた10本の映画から、時代背景の優れた作品をいくつか紹介していただく。(全4話中第3話)
【ご注意】本講義には、映画の内容や結末に言及する箇所がございます。
時間:14分37秒
収録日:2017年8月23日
追加日:2017年9月28日
≪全文≫

●『裕次郎』で取り上げた10本の映画


 『裕次郎』という本の中では、10本の映画を取り上げました。まずラインナップを紹介しましょう。

 昭和31(1956)年の映画が『狂った果実』、昭和32年が『俺は待ってるぜ』、32年から33年に向かう年末年始に封切られたのが『嵐を呼ぶ男』です。同じ昭和33年作に『赤い波止場』があります。この作品中の裕次郎が最高に格好良いという人もいます。翌昭和34年は『世界を賭ける恋』で、昭和37年『憎いあンちくしょう』、昭和38年『太陽への脱出』、昭和39年『赤いハンカチ』と続きます。そして、昭和41年が『帰らざる波止場』、最後が昭和42年の『夜霧よ今夜もありがとう』で、以上の10本です。

 年配の方の中には、「観た映画ばかり」と言われる方もいらっしゃると思います。全部を取り上げるわけにはいきませんが、この中から2~3本、思い出に残ったものを取り上げて、時代との関わりの中でどういうことが描かれたのかを紹介します。


●ブラジル移民とボクシング人気を描いた『俺は待ってるぜ』


 まずは『俺は待ってるぜ』です。裕次郎が演じる主人公は元ボクサーで、喧嘩の時に誤って相手を殺してしまいます。過失致死がついたかもしれませんが、そのために彼はボクサーを辞めて、レストラン経営を始めます。そこに、ある女性(後に石原夫人となる北原三枝)とのやりとりが、絡んできます。

 やがて、彼にはブラジルに移民した兄がおり、1年たてば自分を呼んでくれるはずだからボクサーを廃業したのだということが分かります。ところが、肝心の兄との間は音信不通が続いています。1年後、兄に出した3通の手紙が「該当者なし」扱いで送り返されてきます。結局、兄は日本を出国さえしていないことがだんだんと分かってくるのです。

 時代の背景にあるのは「移民」の事情です。今でこそブラジルよりも日本の方が先進国になってしまいましたが、戦時中も終戦直後も、まったくそうではありませんでした。戦前、満州への移民などは、日本が不景気の時に活発に行われ、戦後は行き先がブラジルやアメリカに変わります。特にブラジル移民については、政策的にかなり奨励されるようなところがありました。少年期をブラジル移民として育ったアントニオ猪木氏が、帰国後にプロレスラーになったのは有名な話です。

 そういう背景の下、いざ移民するとなると船賃が必要ですが、「小銭...

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