ウクライナの宗教と民族の歴史
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
複雑なウクライナの宗教と民族との関係
ウクライナの宗教と民族の歴史(1)四大宗派併存の歴史と背景
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
国際的関心の集まるウクライナ情勢だが、ウクライナを理解するにはこの地方特有の複雑な宗教と民族の関係を知らなければならない。ロシアとウクライナ、西部と東部、ローマカトリックとギリシア正教、といった二項対立のみでは語れないウクライナ独特の宗教文化を山内昌之氏が丹念にひもとく。(前編)
時間:15分51秒
収録日:2014年5月22日
追加日:2014年6月5日
≪全文≫

●ギリシア正教に端を発するウクライナ宗教史


 みなさん、こんにちは。本日は、今、国際情勢の焦点となっているウクライナについて、歴史的な視点から少し考えてみたいと思います。

 間もなくウクライナは大統領選挙を迎えようとしていますが、ウクライナについては、しばしば東ウクライナと西ウクライナとの対立、西部と東部との対立、あるいはロシアとウクライナ、ロシア人とウクライナ人、こういう対立関係で触れられることが多いのです。

 しかし、意外とウクライナの宗教問題については、語られていません。現在のウクライナ問題を理解する上でも、実はかなり歴史的に複雑なウクライナの宗教と民族との関係を理解する必要があるということについて、みなさんと一緒に今日は考えてみたいのです。

 ウクライナと呼ばれる地域では、もともと9世紀後半にキュリロスという人がスラブ諸民族への布教を開始し、真っ先にウクライナにはギリシア正教が持ち込まれました。このギリシア正教というのは何かと申しますと、もともとローマ帝国の全体において最も有力だったキリスト教ですが、395年のローマ帝国の分裂に伴い、首都ビザンチウム(後にコンスタンチノープルと呼ばれることになる)をいただく東ローマ帝国が、独自に皇帝のもとにおいて新しくキリスト教のあり方を模索したことに始まります。その東ローマ帝国におけるキリスト教、これがオーソドックな宗教、正統的な宗教だということで、ローマの教会に対抗しそれを無視する形で成立したのが、やがてギリシア正教、すなわちオーソドックスと呼ばれることになったのです。


●国家キエフ・ルーシが示すウクライナとロシア対立の複雑さ


 このギリシア正教は、北のほう、つまり黒海方面からスラブのほうにかけて広がりを見せていきます。9世紀後半にキュリロスという人物がスラブの間に布教したのですが、このキュリロスの名前は、キリル文字のキリルに残っています。すなわち、ロシア文字、ウクライナ語やロシア語で使われるあの独特なスラブの文字のことをキリル文字というのは、このキュリロスらがスラブ民族に布教するためにそういう文字をギリシア語に基づいて編み出したことに由来します。カトリック教で用いるラテン語に見られるような、普通に私たちがよく知っているアルファベットと違う独特なロシア文字、スラブ文字のアルファベットが、キュリロス...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体
関幸彦
ローマ史と江戸史で読み解く国家の盛衰(1)父祖の遺風
なぜ「父祖の遺風」がローマと江戸に共通する価値観なのか
本村凌二
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
明治維新から学ぶもの~改革への道(1)五つの歴史観を踏まえて
明治維新…官軍史観、占領軍史観、司馬史観、過誤論の超克
島田晴雄
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二
最初の日本列島人~3万年前の航海(1)日本への移住 3つのルート
最初の日本列島人はいつ、どうやって日本に渡ってきたのか
海部陽介

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司