●空気を読まない人がイノベーションを推し進める
―― 森川社長、本日はよろしくお願いします。早速、本題に入りたいと思います。まずはイスラエルのIT人材がイノベーションをどのようにして起こすのかという話からお願いしてもよろしいでしょうか。国民一人当たりの起業率・特許数が世界最大というイスラエルには独特のやり方があるのだろうと思うのですが。
森川 昨日はイスラエルの首相とお会いしましたし、今日も実はイスラエルのファンドの方々とお話ししています。そのように交流を重ねる中で、イスラエルのことにはかなり詳しくなりました。その知見についてはいくつかの新聞などにも書かせていただきましたが、改めてお話ししたいと思います。
イノベーションは、基本的には今までの価値を大きく変える、もしくは停滞している状況を壊していく中で生まれてくるものです。イノベーションを起こすためにはもちろんいろいろな要素を必要としますが、技術が一番重要でしょう。問題は、技術を活かして本当の価値をつくれるかどうか。技術があっても、役に立たなければ意味がありません。それから、イノベーションを推し進める際は空気を読まないことが重要です。
―― 「空気を読まないこと」ですか。
森川 はい。そこでなぜイスラエルがイノベーションを次々に起こせるかですが、イスラエルの場合、一つには、男性も女性も100パーセント軍隊に入らなくてはならないことが関係しています。軍隊で技術を身に付けた場合、その技術をそのまま持ち出して利用していいそうです。国は特許などの権利を持たず、技術を誰でも自由に使えるようにしているのです。
―― 軍隊が学校のように機能しているということでしょうか。
森川 そうです。それが理由の一つ目です。次に、もともと移民文化で、常に人々が出たり入ったりしているので、嫌われることにあまり抵抗がないことが挙げられます。
―― 確か、ロシア系移民が一番多いのではなかったかと思います。10パーセントくらいいるはずです。
森川 日本だと、多くの人が昔から同じ場所に定住し、同じ田畑で農業を続けてきました。嫌われると村に居づらくなりますから、できるだけ周囲に嫌われないようにする文化が根づいています。しかし、移民の人たちは嫌われてもあまり気にせずにいられるので、思い切ったことが言えるのです。軍隊ですら、部下が上官に対して率直に意見する文化があるということでした。そのため、本当に良いものは何かという議論を起こしやすく、また失敗したときにはすぐに反省して新しい方向に進んでいけるのだそうです。技術を学び、自由に使える環境と、変化に対して非常に前向きな文化。この二つが大きいようです。
イノベーションを起こす際は、課題をどれだけ速く改善できるかが一つのポイントとなります。既存の価値をより高めたり、それを壊して新しい価値をつくるときには、空気を読まず、率直に素早く課題を解決し、良いものを生み出していける力と勇気が必要です。イスラエルの人々には、それがあるのです。
●緊張感がなければイノベーションは起こせない
―― イスラエルは中東にあってイスラム諸国に囲まれているため、常に国全体を緊張感が覆っているだろうと思います。その緊張感も、イノベーションを起こす上で大切ではないかと思うのですが。
森川 おっしゃる通りだと思います。イスラエルにいると、日々流れるニュースにも本当に緊張感が漂っています。対する日本はやはり平和なニュースが多く、良くも悪くもぬるま湯になっているところ、変わる必要がないと考えてしまうところがあると感じます。
―― イノベーションを起こすためには空気を読まない人が大事だということでした。確かに、日本にはお金も技術も十分にあり、優秀な人もたくさんいますが、イノベーションはなかなか起きません。空気を読まない人を活かすカルチャーが必要なのだと思います。しかし、日本でそのカルチャーをつくるのは難しいのではないでしょうか。
森川 会社でも国でもどこでも、幸せすぎるのは駄目だと思います。幸せだと努力しなくなりますから。会社もあまりに居心地が良すぎて、努力してもしなくてもそれほど変わらないとなると、人間は本質的に怠惰ですから、どうしても楽なほうに傾きがちです。そうなると、少しずつ皆が力を失っていってしまいます。会社にはある程度の緊張感が必要です。
アフリカの草原と動物園に例えると、当たり前の話ですが、動物園で競争力のある強い動物など生まれるはずがありません。イノベーションが生まれる環境とは、まさにサバンナのようなところです。日々自然と向き合いながら、そこで生き残るため、常に新しいものを考え出す必要のある場所です。動物園の場合は、別にそのような必要はないですから楽でしょう。その代...