●世界最安値。ドバイの電気はなぜ安い?
亀井 資源循環(リサイクル)の話が出ましたが、ちょうど次に議論したかったのが「マテリアルがリードする社会解決はどこまで進むのか」ということです。ただ、これだけでは非常に漠としていますので、三つの点に分けます。一つ目はエネルギー、二つ目が資源、三つ目は健康問題の順で議論をさせてください。
まずはエネルギーについて、岸先生からは先ほど私どもの研究にも何度か触れていただきました。エネルギーに関する研究はどこまで進むのかということを、マテリアルの今日に関する視点も含めて、小宮山理事長からお話し願えますか。
小宮山 日経新聞にも記事が出ていましたが、風力と太陽光のコストがすさまじく下がっています。アメリカでの風力と太陽光の電気は5セント(1kW時あたり)を割ったというのです。日本の原価と比べると半分弱まで下がっていることになりますが、世界を見渡すと砂漠の場合は大体3セントぐらいだといわれています。
ところが、先日ドバイに行った時に実際に聞いてみると、1.8セントだというのです。これは日本と比べるとタダ同然の価格です。なぜ1.8セントにできたのかと尋ねると、太陽電池が両面同じ構造だからだというのです。普通は片面で光を受けるのですが、砂漠の表面は光を反射する(だから白いのです)ので、裏側からも光を受けるようにしたということです。
われわれはずっと高効率の太陽電池を目指してガリウム砒素なども導入し、実効レベル30パーセントから40パーセントを目標としてきました。それも非常に重要なことではあるけれども、思わぬ工夫で倍の効率が確保されてしまったわけです。
風力発電でも同じことがいえます。非常にシンプルだけれども軽くて強く、靭性にも優れた素材が出てくると、コストはあっという間に下がってしまいます。太陽電池や風力などのエネルギーは、マテリアルが引っ張るのであり、さらには裏表両面同じ構造のような単純な見直しが功を奏する場合もあります。
先ほど、亀井さんが「シンクタンクは、その先の未来を考える」といわれました。エネルギーについては、今のコストと比べると実質的にタダ同然という地域が世界のあちらこちらに出てくる傾向は、この先確実になると私は思っています。
●材料に課題を残したまま走っているEV
亀井 ありがとうございます。岸先生、マテリアルが寄与してどこまで進むかという点、自動車に関してはいかがでしょうか。
岸 EV(電気自動車)が大きく伸びるという報道がありますが、すぐピンときたのは、EVには電池が必要だということです。リチウムイオン電池が実用化されていますが、コバルトも使います。ですから、われわれ材料屋としては「本当かな?」と引っかかるわけです。
2000年の初頭に、日本はレアメタルで非常に大きな災難に遭い、苦労をしました。日本で初めて文科省と経産省が大きなプロジェクトを一緒に行うことになり、私が座長を務めました(「元素戦略プロジェクト」と「希少金属代替材料開発プロジェクト」。いずれも2007年発足)。その経験から見ると、本当にバッテリーが追い付くのかどうかは、やはり資源から考えてみないと駄目だろうと思うのです。
日本は10年間ほど、非常によく頑張り、だいたいの金属を見つけて、「都市鉱山」といいますか、リサイクルにも成功しました。しかし、やはりはっきりいうと元素の数が足りていません。材料屋はすぐそういうことを考えるのですが、リチウムの他に使う元素が、なかなかそのあたりにはありません。そういうわけで、EVの最大の課題はバッテリーであり、その材料にあるということです。課題を残しながら走っているのがEVともいえます。
それから、バッテリーで頑張って二倍性能を上げることと、軽量化して負担を半分にすることは、ほとんど同じような話になります。ですが、二択ではなく、両方に倍ぐらいの効果があって初めてゼロエミッションにつながります。だから材料は今、両面で頑張っているとご理解ください。
●劣化や汚染にあえぐ山と海をマテリアルが救う可能性
亀井 ありがとうございました。次に資源という観点から議論したいと思います。私どもでは今回、森林資源である木材に注目しました。この点に関してはいかがでしょう。
小宮山 この間も国際的なデータが出ていましたが、日本は森林の5パーセントしか手入れしていないというデータがあります。明治維新の工業化で産業革命を行ったために、結局は一次産業をスポイルしたのです。その結果、山が手つかずになっていて、しかも戦後に1回丸坊主にしたところには杉ばかりを植えました。杉はいろいろな要因によって土壌を非常に弱くするため、災害にもつながっています。これほど大地震や大雨が来るたびに土砂崩れが起こることは、...