『三国志』から見た卑弥呼
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『魏志倭人伝』における陳寿の理念による記述
『三国志』から見た卑弥呼(3)『魏志倭人伝』の虚構
歴史と社会
渡邉義浩(早稲田大学常任理事・文学学術院教授)
早稲田大学文学学術院教授の渡邉義浩氏によると、『魏志倭人伝』は事実のみではなく、陳寿の執筆意図を色濃く反映したフィクションの部分も多々あるのだが、倭国、倭人の風習を通しておおむね好意的に描かれているという。その記述、表現をつぶさに見ていくと、当時の中国の社会観や陳寿の政治的理念が見えてくる。(全3話中第3話)
時間:15分11秒
収録日:2018年3月15日
追加日:2018年8月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●卑弥呼の「親魏倭王任命」は事実という根拠


 陳寿が書いた倭人伝は、どのようにフィクションと事実が入り混じっているのか。そのお話をしたいと思います。

 倭人伝は基本的に3つの大きな部分から成っています。一番最後に書いてあることが一番重要なのですが、そこに「卑弥呼を親魏倭王に任名する」という皇帝の命令書のことが書かれています。ここは変えられません。この詔の部分を改ざんするというのは歴史家としてやってはいけないことですし、事実、中国ではほとんどそういうことはありません。

 なぜそれが分かるのかというと、例えば、『漢書』に収録されている詔と同じものが、敦煌の発掘物の中から出てきているのですが、ほとんど一字一句違わないものなのです。それほどの正確性を持っています。ですから、『魏志倭人伝』の一番最後に出てくる「親魏倭王に卑弥呼を任命する」という文章に、ほとんどフィクションはありません。


●典拠のあるフィクション・記録に基づく事実


 そこにはどういう国に与えたのかという説明が出てきますが、そのことについてはフィクションと事実が入り混じっています。なぜ入り混じっていることが分かるのかというと、中国の歴史書は空想で書かれることはありません。つまり、何か理念を書いていくときには典拠があるのです。具体的には南方の地理に関わりますから、『漢書地理志』、あるいは儒教経典の中の『尚書禹貢(しょうしょうこう)篇』などをもとにしながら自分の考え方を書いていきます。したがって、典拠のある部分に関しては比較的フィクションの部分が多いのです。

 それに対して、記録、報告書に基づくもの、例えば「持衰(じさい)」などという言葉が出てきます。これは航海の無事な往来を祈って、ずっと女性にも触らず汚い格好のままでいるということですが、中国の全ての典籍を当たっても、倭人伝を典拠とする文書以外には出てこないのです。つまり、これは明確に何らかのソースがあった、記録書に基づく事実の部分であるということが分かります。そうやって、フィクションと事実を分けていくことができます。


●倭国の距離、方角に関する記述はほぼフィクション


 そして、最初のところに邪馬台国の問題で一番よく出てくる、「どのくらいの距離で南に行って」という記述があるのですが、ここもある程度当てにならないものだと考えています。どうい...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
概説・縄文時代~その最新常識(1)縄文時代のイメージと新たな発見
高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
山田康弘
『三国志』から見た卑弥呼(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国
異民族の記述としては異例な『魏志倭人伝』と邪馬台国
渡邉義浩
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之

人気の講義ランキングTOP10
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
日本の定年制はおかしい…ガラパゴス的で不幸を招く制度
出口治明
運と歴史~人は運で決まるか(1)ソクラテスが見舞われた「運」
歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える
山内昌之
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉