『三国志』から見た卑弥呼
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『魏志倭人伝』における陳寿の理念による記述
『三国志』から見た卑弥呼(3)『魏志倭人伝』の虚構
渡邉義浩(早稲田大学常任理事・文学学術院教授)
早稲田大学文学学術院教授の渡邉義浩氏によると、『魏志倭人伝』は事実のみではなく、陳寿の執筆意図を色濃く反映したフィクションの部分も多々あるのだが、倭国、倭人の風習を通しておおむね好意的に描かれているという。その記述、表現をつぶさに見ていくと、当時の中国の社会観や陳寿の政治的理念が見えてくる。(全3話中第3話)
時間:15分11秒
収録日:2018年3月15日
追加日:2018年8月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●卑弥呼の「親魏倭王任命」は事実という根拠


 陳寿が書いた倭人伝は、どのようにフィクションと事実が入り混じっているのか。そのお話をしたいと思います。

 倭人伝は基本的に3つの大きな部分から成っています。一番最後に書いてあることが一番重要なのですが、そこに「卑弥呼を親魏倭王に任名する」という皇帝の命令書のことが書かれています。ここは変えられません。この詔の部分を改ざんするというのは歴史家としてやってはいけないことですし、事実、中国ではほとんどそういうことはありません。

 なぜそれが分かるのかというと、例えば、『漢書』に収録されている詔と同じものが、敦煌の発掘物の中から出てきているのですが、ほとんど一字一句違わないものなのです。それほどの正確性を持っています。ですから、『魏志倭人伝』の一番最後に出てくる「親魏倭王に卑弥呼を任命する」という文章に、ほとんどフィクションはありません。


●典拠のあるフィクション・記録に基づく事実


 そこにはどういう国に与えたのかという説明が出てきますが、そのことについてはフィクションと事実が入り混じっています。なぜ入り混じっていることが分かるのかというと、中国の歴史書は空想で書かれることはありません。つまり、何か理念を書いていくときには典拠があるのです。具体的には南方の地理に関わりますから、『漢書地理志』、あるいは儒教経典の中の『尚書禹貢(しょうしょうこう)篇』などをもとにしながら自分の考え方を書いていきます。したがって、典拠のある部分に関しては比較的フィクションの部分が多いのです。

 それに対して、記録、報告書に基づくもの、例えば「持衰(じさい)」などという言葉が出てきます。これは航海の無事な往来を祈って、ずっと女性にも触らず汚い格好のままでいるということですが、中国の全ての典籍を当たっても、倭人伝を典拠とする文書以外には出てこないのです。つまり、これは明確に何らかのソースがあった、記録書に基づく事実の部分であるということが分かります。そうやって、フィクションと事実を分けていくことができます。


●倭国の距離、方角に関する記述はほぼフィクション


 そして、最初のところに邪馬台国の問題で一番よく出てくる、「どのくらいの距離で南に行って」という記述があるのですが、ここもある程度当てにならないものだと考えています。どうい...

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