●黄巾の乱と16文字のスローガン
こんにちは。早稲田大学文学学術院の渡邉義浩と申します。今回は董卓(トウタク)と二袁(ニエン)ということで、三国時代の始まりとなっていく後漢末の混乱について、お話ししていきたいと思います。
400年間続いてきた漢という国家ですが、次第にその支配は乱れていきます。その結果として184年から起こっていくのが「黄巾の乱」と呼ばれるものです。歴史とは、勝った側が編纂していくので、敗れた側の方は「乱」と見なされ、黄巾は悪者扱いされるわけですが、黄巾には黄巾の理想、目指すところがありました。
具体的に黄巾とは、張角という人が太平道という集団を率いて始めたものです。その張角の太平道は「蒼天已(すで)に死す、黄天当(まさ)に立つべし。歳は甲子に在り、天下大吉なり」という16文字のスローガンを掲げて反乱を起こしています。つまり、この16文字の中に彼らの理想とする世界観が出ているのだ、と考えることができると思います。
16文字の後半は割に簡単です。「歳は甲子に在り」、この甲子というのは暦の始まりの年なのです。この時すでに十干十二支という暦がつくられていて、60通りの組み合わせになります。現在でも60歳になると還暦といいますが、これは暦が一回転するからです。その一回転した最初の年が「甲子」の年であり、暦が変わっていくため革命の年、さまざまなものがあらたまっていく年であると考えられていたのですが、それが184年にあたっていたわけです。ですから、この甲子の年に蜂起をしたということです。その結果、「天下大吉」あるいは「天下大いに吉なり」、つまり天下が幸せになっていく、ということなので、後半に書いてあることは難しくはありません。
●蒼天、黄天が示す漢時代の終焉
前半の「蒼天已に死す、黄天当に立つべし」が、かなり学会でも議論があるところなのです。「黄天」というものが立つといっているので、この黄天が彼らの理想であることは明らかです。そして、この黄天は黄天太一、つまり宇宙神なのです。儒教が、中国の国の宗教となる以前に尊重されていた「太一・太乙(たいいつ)」という宇宙の神さまがいるのですが、その太一神というものを復興しようとする、それが黄巾の理想だったと思います。
それに対して、倒されていこうとする「蒼天」、青々とした天下がすでに死んでいるのだという、この...