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中国での政治的統治はまず「水の支配」から

中国の「なぜ」(2)なぜ「中国には巨大な政治権力が必要なのか」

石川好
作家
情報・テキスト
『清明上河図』
中国はなぜ巨大な政治権力を必要とするのか。紐解く鍵は中国の風土にあった。大災害が起こると中国の権力者は自ら陣頭指揮をとる。その理由とは?(全8話中第2話)
時間:07:19
収録日:2013/08/05
追加日:2014/02/24
キーワード:

●政治的統治はまず「水の支配」から


 第2回目になります。『なぜ「中国には巨大な権力が必要なのか」』、このテーマで少しお話ししたいと思います。

 皆さんご存じのとおり、中国というのは本当に中央集権国家です。歴代の王朝は巨大な権力を持ち、民主的なことをしたことは一度もありません。今日の中華人民共和国も、共産党の指導の下、巨大な権力を持っています。

 なぜ、中国が民主化しないのか、あるいは分割しないのか、常に巨大な中央集権の王朝が支配しているのかという根本的な理由は、なかなか日本人にはわかりづらいのですが、中国の風土にあります。中国のことをイメージしてみて下さい。巨大な大陸です。チベットやウイグルはほとんど雨も降らない乾燥地で、黄砂もすごいです。一方では黄河や長江など巨大な河があります。中国という国は過酷な自然風土を持った国なのです。そのなかにおいて、中国では「水を支配することが政治を統治すること」と古来から言われてきました。中国で巨大な権力が必要となる理由は、この水を統治するためです。


●巨大権力の使命は自然災害のリスクヘッジ


 中国は農業国家ですから、黄河や長江が大氾濫を起こすと、とてつもない被害が出ることになります。その水を支配するためには、巨大な中央集権国家がないといけないというのが大前提としてあります。中国は世界のなかでも自然災害がもっとも大きいところです。

 たとえば、今から4、5年前に四川省の大地震がありました。四川省だけでも人口は1億人ですが、そこが放置されていたら立ち直れません。だから、ああいう大災害が起こると、巨大な統一国家として中央政府が「四川を助けなさい」と各省にすぐに指示を出します。「北京人民政府は経済が良くて儲かっているからいくら出せ」「広東省は中国において経済が最大だから、省としていくら出せ」などと、四川を助けるためのお金や人員を各省に割り当ててしまいます。このように大災害が起こると、各地域がこぞって応援部隊やお金を出す仕組みが、中国では古来からあります。黄河や長江が大氾濫すると数千万人の人が亡くなり、住宅や城、農業地帯が全滅してしまいます。そこを助けるためには、周辺の人たちが協力しなくてはいけません。その人たちの財力や人力を集めて投下するためには、巨大な権限を持った人がいないと出来ないのです。したがって、自然災害が起こったときのリスクヘッジとして、実は巨大な権力が必要になるということです。


●水、水路の確保・管理も最重要項目


 もうひとつは、日本を例にとれば、利根川や奥多摩の水系がありますが、たとえば山梨県や群馬県が東京に水を送らないと言ったら、東京には住むことができなくなります。同じように、中国でも黄河や長江の上流にある地域が独立した国であるならば、一番文明が発達している北京や上海などの沿岸部に水が来なくなってしまいます。ですから、水をまんべんなく各地域に送り込むために、巨大な権力が必要となります、中国には「南船北馬」という言葉がありますが、南のほうは北京から運河で行くことができました。7世紀、8世紀には、上海や南京から北京のほうまで黄河や揚子江の水を引きながら船で行くことができました。つまり水を支配していたわけです。水、水路があることによって中国の経済が発展するわけですが、当然、それを支配するための巨大な力が要りました。


●自然環境が必然的にもたらした中国の巨大政治権力


 ですから、中国には巨大な権力が必要だということは、あくまでもあの広大な土地や過酷な自然現象、これにもし万が一何かあったときにコントロールする、中国の王朝の仕事はそれなんですね。中国の巨大な権力が独裁だとか文化だとか、そういうことも言えるのですが、それ以前にあの広大な土地というものを一つのものにしておくために、どうしても巨大な権力が必要だったということです。

 最近で言えば、いまから10年くらい前、江沢民さんが日本に来ると決まったときに、黒竜江省のアムール川が大氾濫して数千万の人が被害者になった。そのときに皇帝が外国に行ったら失脚してしまうんです。ですから、水害を理由にして江沢民は日本に来なかった。そのときは陣頭に立って、わざわざその現場に行って指揮をした。広大な田んぼが大氾濫で全部水浸しになって、それを陣頭に立って指揮した。それによって、中国の皇帝にふさわしい人だということになるんです。四川省のときにも、温家宝さんがその日に入って、ヘルメットをかぶって陣頭指揮に立った。というのは、大災害があったときにこそ、中国の権力の存在意義が見せ付けられるからなのです。

 そういう意味で、中国に巨大な政治権力が必要なのは、中国の自然環境がもたらしたものだということを押さえていく必要があると思います。
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