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デカルト『方法序説』の四つの規則…なぜ四つしかないか?

デカルトの方法論に学ぶ(2)規則が四つしかない意味

津崎良典
筑波大学人文社会系准教授
情報・テキスト
『方法序説』
(デカルト著、谷川多佳子訳、岩波書店)
方法(method)という言葉は、古代ギリシャ語では「道を沿って」という意味になる。道に沿っていくことが、どのようにして難題を解決する糸口になるのだろうか。それは私たちにどのような教訓を与えるのだろうか。(全2話中第2話)
時間:09:38
収録日:2018/09/27
追加日:2019/02/28
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≪全文≫

●第三の規則:順序を重視し、問題の解決を運任せにしない


 第三規則はこうなっています。

 「第三は、私の思想を順序に従って導くこと。最も単純で最も認識しやすいものから始めて、少しずつ、言わば階段をのぼって、最も複雑なものの認識にまであがっていき、かつ自然のままでは前後の順序をもたぬものにさえも、順序を想定して進むこと。」

 「私の思想を順序に従って導くこと」というところでは、「順番」というキーワードが出てきました。「最も単純で最も認識しやすいものから始めて、少しずつ」と続きますが、「少しずつ」というキーワードも出てきました。これは前回、最初に紹介した『精神指導の規則』の中にも近い言葉(一歩ずつ)が出てきました。「言わば階段をのぼって、最も複雑なものの認識にまであがっていき、かつ自然のままでは前後の順序をもたぬものにさえも、順序を想定して進むこと」では、順序というキーワードは何回も出てきています。

 ことかように、デカルトは順序立てて物事を考えていくことを非常に重視していました。しかも一見すると、前後関係がないように思われるところにも順序を設定しています。「自然のままでは前後の順序をもたぬものにさえも、順序を想定して進む」とデカルトは述べているからです。

 なぜこんなに順番ということにこだわるかというと、その理由は一つしかありません。物事を闇雲に取り組まないためです。ああだこうだと闇雲に取り組まず、順番を少しずつ設定して取り組んでいかなければならないということです。

 なぜかというと、それは問題の解決を運任せにしないためです。闇雲に解いて「うまくいった」となっても、それはたまたまうまくいっただけです。たまたま何かうまくいったということは、自分の精神をきちんと使えてはいません。自分の精神をきちんと使わずにたまたまうまくいっても、それは嬉しくないでしょう。順序をきちんと追っていくことで、初めて自分の精神の能力をきちんと使えているということになり、そうして問題を解いてこそ、満足感が出てくるのです。

 だから、精神の能力をきちんと使うための順番をきちんと守るということが非常に重要なのです。これは、最初に紹介した、『精神指導の規則』の第四規則の中に出てきましたが、デカルトは重要なキーワードとして「精神の努力を浪費しない」ということを言っていました。闇雲に手当たり次第、問題に取り組んでいたら疲れてしまいます。よって、疲れないために、順番を設定して取り組んでいこうというのがデカルトの非常に大事な発想です。

 とにかく行き当たりばったりは、デカルトが本当に嫌う考え方です。これが三番目の方法の規則です。


●第四の規則:枚挙し、通覧する


 では四番目の規則で、これが最後です。

 「第四は、何も見落とすことがなかったと確信しうるほどに、一つ残らず枚挙し、全体にわたる通覧とを、あらゆる場合に行うことであった。」

 「枚挙」はいざ知らず、「通覧」という日本語はあまり聞かないですね。枚挙とは、一つ一つ数え上げることです。通覧とは、最初から最後まで全部見直すということです。つまり、ダブルチェックです。

 一個ずつ数え上げていって、何か見落としがないか、全部やり終えてみて、もう一回最初から見直してみて、本当に見落としがないか、チェックするということです。

 とりわけ第二規則では、問題を細かく分けようと言っていましたね。例えば、『方法序説』を読んでいくとします。第一部を読んだら、次に第二部を読んでいく。続いて第三部、第四部、第五部、第六部……と読んでいって、本当に全部読んだかなと、もう一回確認する。それだけではなく、読んでいるその途中でも、1ページずつ確認していく。ページを二枚分めくっていないか、三枚分めくっちゃっていないか、ちゃんと次のページに進んでいるかなど、見落としがないかどうか枚挙していく。全部読み終わったら、読み落としているところが本当にないか、もう一回パラパラめくってみる。こうしたダブルチェックを忘れないようにやりましょう、というのが四番目の規則です。


●規則がたった四つしかないこととその意味


 さて、デカルトが『方法序説』という本の中で主張している方法の規則は、以上の四つしかありません。つまり、この四つが、デカルトが主張する方法ですが、ちょっと少なすぎませんか。しかし、四つでよいのです。どうしてか。理由は簡単です。方法の規則が増えれば増えるほど、それを守ることが大変になるからです。

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