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デカルトの思考実験とポルトマンの「生物学的早産」

「教養とは何か」を考えてみよう(10)人間だけがなぜ話をするのか

概要・テキスト
デカルト
出典:Wikimedia Commons
大型の動物のなかでなぜ人間だけが話をするのだろうか。二人の哲学講師は「生物学的早産」による就巣性に目を向ける。人間が独り立ちするまでの長期間、子育てをしない社会はない。そこにはコミュニケーションが生まれ、規範が発生する。それは「緑の国」と「ピンクの国」との分かり合えなさや融和の方法にもつながっていく。(全15話中第10話)
時間:10:55
収録日:2020/10/26
追加日:2021/06/29
≪全文≫

●人間だけがなぜ「話」をするのか


津崎 僕は今、さっちゃんと話をしていて、当たり前といえば当たり前なんだけど、でも不思議といえば不思議なこととして、「教養」についてこんなことを話すのはたぶん、この世の中に存在している生物のなかで「人間」しかいないよね。

五十嵐 うんうん。

津崎 「人間には言語が備わっている」という意味ではなくて、「話をする生物は人間しかいない」というところに少しこだわってみたい。

 実はデカルトが『方法序説』のなかで面白いことを言っていて、「わたしたちは、大人になる前にみんな子どもだった」と。「そんなの、当たり前じゃん」と思うんだけど、デカルトが言おうとしているのは何かというと、「生まれたときにこの世で最も公平に分配されたものが理性なり良識だ」というふうに、彼は『方法序説』のなかで言い始めている。

 ということは、生まれつきみんな一応良識が備わっている。だけど、子どものときからの親の影響や教育の影響により、「なぜかその良識が曇らされ、判断力が鈍っている」というふうに、思考実験をするんだ。

 もし、そういうことがなくて、ルソー(Jean-Jacques Rousseau)が論ずる「原始人」よろしく、生まれつきの精神の能力をきちんと使っていたら、誰も苦労しなかっただろう。でも、子どもがずっといろんなことを勉強して過ごすうちに、それが曇らされる。ようやく大人になった僕たちは、そこから「脱我」しなければならないと。

 というところで、カント(Immanuel Kant)の『啓蒙とは何か』などもちょっと関わってくる。これは「幸福とは何か」のシリーズで話したから、『啓蒙とは何か』については、わたしたちの対談講義シリーズ「『幸福とは何か』を考えよう」(第4話)をご覧ください。

五十嵐 分かりやすいお話ですので。


●ポルトマンの「生物学的早産」の意味とは


津崎 それはいいとして、大人になる前には僕たちは子どもであった。しかも、デカルトはその「子どもであった」ことを少し否定的に捉えているんだけど、ポルトマン(Adolf Portmann)という生物学者、知っているでしょ?

五十嵐 うん、知っている。

津崎 スイスの人なんだけど、彼の「生物学的早産」という話を少ししてみたいと思う。

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