●長期金利がゼロに近いから借金を増やしても大丈夫というのは乱暴な議論
長期金利は普通、国債の利回りで議論します。今の時点で10年ものの長期金利はほとんどゼロに近い。一時的にはマイナスまでいくことがあるわけですが、長期金利、すなわち10年ものの国債の利回りが0パーセントだということはどういうことかというと、政府が新たに債務を借金したり、あるいは過去に借りた債務を新しい国債に借り換えたりしたときの金利負担は生まれないということです。
ですから、非常に乱暴な話ではあるのですが、長期金利がゼロに近いというのは、政府はある程度借金を増やしても問題がないのではないだろうかという議論になる可能性があるということです。
この「政府がある程度借金を増やしても問題がないのではないだろうか」という言い方は、非常に気を付けなければいけないと思います。今いくらでも借金を増やしても大丈夫だという非常に乱暴な議論もありますから、そういう議論と一緒にはされたくありません。
●債務を減らすにあたって歳出を抑え込むと弊害もあり得る
ただ、非常に印象的だったのは、最近、元アメリカの財務長官でハーバード大学の教授でもあるローレンス・サマーズ氏が『FOREIGN AFFAIRS(フォーリン・アフェアーズ)』でそのような論点に立った非常に強烈な議論をしていることです。簡単にいうと、ある程度政府の債務が高い水準にあるわけだが、それはあまり気にする必要はない、ということです。
むしろ心配しなければいけないのは、急速に債務を減らさなければいけないからといって、歳出を抑え込むことのマイナスの方が大きいのではないだろうか、ということです。低金利がもたらしているマクロ的な環境について、再度きちっと考える必要があるのではないだろうかということを言っています。そういう意味では、日本の財政問題や日本の経済運営についても、この点は非常に重要になってくるかもしれません。
個人的な話をすると、日本の債務が非常に大きいことが将来、財政に対して非常に大きな負荷をかける、ということを私は心配しています。確かに今、金利は非常に低いので、政府の財政の中における国債の利払いの負担は次第に小さくなってきています。
ただよくいわれるように、もし何らかの理由で国債の金利が上がったりすると、債務における政府の財政負担が増えていきます。政府がよく言うように、仮に1,000兆円の債務が今あるとすると、1パーセントポイント金利が上がっただけでも約10兆円の利子負担だということです。これは大変な負担になるわけです。
●長期金利が低いのは日本の潜在成長率や生産性と関係がある
ここで1つ考えなければいけない問題があります。それは、これから3年後、5年後を見たとき、長期金利は上がるのだろうかという問題です。それと非常に深く関係した質問なのですが、そもそもなぜ長期金利がこんなに低いのでしょうか。今、ゼロに近い数字です。
この2つは非常に深く関係しているのだろうと思うのです。よくあるのは、日本銀行が凄まじい金融緩和をしているから、長期金利が低いという議論です。確かに日本銀行は大量の国債を購入していますし、デフレが十分に脱却したと思えるまでは短期金利、つまり政策金利を今のゼロ金利あるいはマイナス金利で維持するという姿勢を非常に強くしているわけですから。結果的にそれが長期金利を非常に下方に抑えていることは事実です。
ではその長期金利は本当に日本銀行がつくっているものなのかというと、他方でよくいわれるのは、長期金利は要するに日本の持っている潜在成長率や生産性と非常に深い関係があるのではないかということです。
経済がある程度の成長率や高い生産性の伸びのようなものを予想していれば、当然それに合わせて金利も上がっていきます。日本の長期金利が非常に低いのは、残念ながら日本の成長余力とか潜在成長率、あるいは生産性の上昇が低いということを反映しているのではないだろうかということです。
●需要と供給の構造の中で非常に金利が停滞している
さらにいえば、理論的には国債利回りの長期金利は、資金の需要と供給で決まってくるわけですが、一方で資金需要側の企業はGDP比でおよそ5パーセント近い超過貯蓄、あるいは資金余剰のようなものを毎年貯め込んでいるわけです。
つまり、企業の方から資金需要が発生していないのです。一方で資金供給側に入ってきているわけですから、こういう状況が続いている限りは、国債の金利は資金の需要と供給のクロス(交点)で決まっていますし、国債金利も非常に低い状態になってきているのではないかと思います。
中長期で見ると国債の利回りはどうかというと、1990年代ごろは結構高いのです。アメリカは実質金利で10年ものの金利は...