●知識の爆発により、誰も全体像を把握できない。
―― 先生が「知識の爆発について、さらに激しく知識が爆発してくる」、と指摘しています。通常のやり方では、なかなか知識を構造的に身に付けていくことはできない。その時期にあたって、先生がテンミニッツTVをつくられたその背景について、お聞かせいただければと思います。
小宮山 1970年代からですね、研究者が読める論文の数が限られてきた。50年ほど前から、既に、自分で最新の情報を仕入れるという領域がものすごく狭くなってきた。1982年に、有名な論文が出て、トップジャーナル12を選んで、「そこの雑誌に3年以内に出た論文を再投稿する」、という実験をした。
その実験をしたところ、どれもいい雑誌ですから、一つの論文あたり3人ぐらいが読むので、30数名の立派な人たちが読んだわけです。そのうち、再投稿だと気付いた人は、3人しかいないんだよ。これは、「この分野はこの人に聞けば一番分かるだろう」、というふうに他の人が思っている人が読むわけですから。その人たちが実は3年以内に出た論文を、ほとんどは読んでいない、ということですよ。これが確か1982年だったと思います。こういうふうになってきているわけです。「あなたはこんなことも知らないのか」、と言われても、新しいことを知らないのは仕方がない。
しかし、ある程度、全体像をみんなが共有しないと前に進めないじゃないですか。私が「知識の構造化」ということを言い出した背景はそういうことです。
●信頼できる専門家を見つける
小宮山 では、今どうやっているのかというと、私は大学の時からそうだったのですが、「このことはこの人に聞くとだいたい正しそうだ」というのがあるわけですよ。
そういう人を「どれだけの分野でどれだけ持っているか」、ということが極めて、今世界の全体像をできるだけ正しく把握するために重要なわけです。私は大学の総長をやったりしていたから、比較的そういうのができる立場にいたわけですね。それでも一人では無理です。一般の方が、バイオから、あるいはエネルギーから人口に関してまで、「本当にどうなんだろう」と判断するのは並大抵のことではないです。
そうすると、やはり、われわれが「この人は大丈夫」、という人を各分野でたくさん探してきて、100名から1,000名でしょうね。そういう人たちに話して頂く。それも長くてはダメで、聞いていられない。短めでなければいけない。だから10分。「1話10分で、真髄を話してください」、というようなメディアですかね。
―― 一番よく分かっている人じゃないとできませんよね。
小宮山 そうそう。それが「今の時代には不可欠なんじゃないかな」、というふうに思うわけですね。
―― 知的耳学問で、ある程度、碩学(せきがく)の人たちが集まって「この人だったら大丈夫だろう」、という人を選んでもらって、それで全体感を把握していく、と。
小宮山 そうですね。これは選ぶのは難しいですけどね。
―― すごく難しいですよね。
小宮山 難しいですよ。だけども、例えば私なんかは医療はあまり詳しくないわけですけども、永井良三先生(自治医科大学学長)に伺って、それから堀江重郎先生(順天堂大学医学部大学院医学研究科教授)にでも、裏をとれば、「二人が大丈夫だと言えば、信用するしかないじゃないか」と思います。
―― 確かにそうですね。永井先生と堀江先生だったら、最強のコンビですよね。
●日本の常識は世界の常識ではなくなっている
小宮山 そうだと思うんですよ。だから、あまり同門とかそうではない人たちです。できれば、海外の人がいたほうがいいんですよ。
というのも、最近面白い経験をした。私はエネルギーは比較的専門に近いのですが、最近気がついたのは、グーグルの検索画面に「リチウムイオン電池の価格」、と入れると、日本語のサイトが出ますよね、全部。そうすると、「パソコンの電池がいくらで売られている」、とか出ますね。ようやく2ページ目くらいに私が知りたい「家庭用に入れるリチウムイオン電池の価格」が出てくる。一方で、全く同じことを英語で、「Price of lithium ion battery」と入れる。そうすると、英語のサイトが出てくる。今、リチウムイオン電池のスポット価格を先週調べたら、1kWhという単位で176ドルです(2018年時点)。1万7,600円、1ドル100円なら。この値段は、日本語のサイトで見たもののだいたい10分の1ですよ。
―― 日本のサイトで見た価格とそんなに違うのですね。
小宮山 だいたい一軒に10kWhを入れると、「太陽電池の余った電気を貯めておいて、無いときに使う」、というのに十分な大きさなんですよ。だから、kWhあたり1万7,600円だから、10kWhで17万6,000円です。あと、いろいろ付属物を入れてもおよそ25万円です。
私が...