●他分野間での議論の重要性
―― 前提の作り方は、専門家だけじゃダメなので、ある種トランスサイエンスみたいに、「科学のことは科学者だけに任せておけばいい」、ということではないんですね。
小宮山 そうですよ。だから、「インクルーシブ」、という言い方をしますよね。「多様性を包摂する」、ということです。要は、「いろんな考え方の違った人が混ざる」、ということです。そこで、議論をしなければ、「どういう前提が正しいだろうか」、という議論はできないんじゃないですかね。
●教育の意味が大きく変わってきている
―― 今日の議論で、先生に明確に教えてもらったのは、「前提の話をする」というところは、専門家だけではできない、と。その「前提」が決まった後の工程は専門家でやってもらう、というのは大きな間違いが起きないけれども。このことは原発ではっきりしているわけですね。
小宮山 そうですね。その通りですよ。
●知識の爆発の時代では「相互成長」が大事
―― 「多重」防備と言っても、津波までは考えていなかった、という話になっちゃうわけですね。先生、これは深いですね。
小宮山 深いですよ。これは知識の話だから深いに決まっている。哲学者というのは、そればかり考えていたわけだから。それも哲学者に任せていてもダメ。やはり知識の話は大事なのだから、われわれ素人は「そんなものも知らないのか」と言われるかもしれないけど、「すいません」と言うだけですよ。
―― そういう意味で、碩学(せきがく)をたくさん用意して、それに対して知的耳学問していく、ということで、要するに勉強の仕方が変わってきているわけですね。
小宮山 「教育」という言葉自体が英語だったら「education」、ドイツ語だったら「erziehung」で、あれは「引っ張り出す」という意味ですからね。だけれども、僕はそれすらも違ってくると思うよ。引っ張り出すことなんか、だんだんできなくなっている。なぜなら、昔僕らが考えてできているものと違うものがどんどん発展してきているから。そうすると、僕は「相互成長」、というものしかないと思っている。「一緒に成長していく」。英語でよく言っているんだけど、「Mutual Growth」、相互に成長していくということです。
「by lifelong active learning」。だから結局、一生勉強していくことが大切です。やっぱり、受験勉強というのは本当に嫌だけど、知的好奇心というのは人間あるわけですよ。それが満たされるような、勉強であったり学習というのは、人生の喜びの一つですよ。「なるほど、そうか、分かった」という感覚は、かなり本質的な人間の価値観のようなものだと思うんですね。それは別に子どもの特権ではないんです。昔みたく、「これ、勉強してこい、あれ、勉強してこい」、というモデルや「大学卒業した頃に一人前になるから、そしたらあとは社会で働いてください」というモデルは成り立たない。知識の爆発の時代に、いつまで経っても一人前になんかなれません。
―― 一生学び続けないといけない、と。
●優秀な若者と経験豊富な大人を結びつける役割
小宮山 そうです。われわれは、「プラチナ構想ネットワーク」という活動をやっているのですが、そこでは小学生、中学生、高校生に教えたりしています。そこで、先生たちが異口同音におっしゃることがあります。
例えば中学生について、「中学生ってするどいですね」と言うのです。神藏さんも、未来人材育成塾に参加されたことがありますよね。あの中で先生たちがよく言うのは、中学生が非常に急所をつく、鋭いということです。
実はそれは当たり前で、中学生になると、脳はもう出来上がっています。経験がなく、知識の量が大人よりも少ないというだけなのです。脳の回路がつながった時のスピードや忍耐力、新しいものを取り入れる力では、大人は中学生に勝てません。
―― 経験がないだけですね。
小宮山 経験がないだけです。だから僕は学生が重要になってくると思っている。学生あたりが、上と下、つまり若い人と年寄りの間をつなぐのにちょうどよく、社会のエンジンとしての役割を担う上で、最もふさわしいのです。
●若者の経験の少なさを上の世代がサポートせよ
小宮山 現代がAIの時代であることを考えると、分かりやすいと思います。私はこの分野の最先端になることはできません。松尾豊先生(東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 技術経営戦略学専攻教授)にお聞きしたのですが、AI研究者として最強なのは、27歳なのだそうです。どうして27歳なのかと聞くと、博士号(ドクター)を取得した直後だからだそうです。若い人がAI研究者として最強なのです。こうした人たちに引っ張ってもらうのが、おそらく正しいと思います。ただしこの人たちには経験がないので、危...