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AI人材育成に向けて高専生に注目した「高専DCON」とは

日本のAI人材育成に向けた取り組み

松尾豊
東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 技術経営戦略学専攻 教授
情報・テキスト
日本のAI人材育成の課題とその解決のための取り組みについて語る松尾豊氏。ディープラーニングという新しい技術を伝達、活用するための仕組みづくりが重要だと説く。そこで注目しているのが高専生だ。2019年、ビジネスでの価値を評価する高専生対象のコンテスト「高専DCON」が実施されたが、そこではAIの技術だけでなく、どういう人のどういう問題を解決するために開発するのかという点も重要視されたという。若者にはAIビジネスで世界に羽ばたいていくことが期待されているのだ。
時間:12:32
収録日:2019/08/28
追加日:2019/11/24
≪全文≫

●若い人が知識を伝達していく仕組みが重要


 東京大学の松尾豊です。今日はAIの人材育成に関してのお話をしたいと思います。

 今、AIの人材を育成するというのは、日本全体で非常に重要な課題になっています。先日は政府が25万人の人材を育成すると言っていましたが、1つ注意しないといけないのが、AIといった場合にかなり幅広いテクノロジーを指すので、従来からのIT技術もAIといわれる場合が多いということです。

 特に私が注力しているディープラーニングは非常に新しい技術で、ここに関しては世界中が今、しのぎを削って開発競争をしているところです。しかし、技術が新しすぎてなかなか教えられる人がいない、あるいは若い人しか教えられないという状況になっています。従来のように先生が学生を教えるというよりも、むしろ学生が学生を教えるというように、若い人が知識を伝達していくというような仕組みが重要なのではないかと思っています。


●G検定で技術の目利きのレベルを上げる


 このディープラーニングの人材を育成するため、日本ディープラーニング協会を創設して、そこでいろいろな活動を行っています。中でも「G検定」「E資格」という資格を設けているのですが、G検定の方は技術を取り巻くビジネスマンやメディアの方、官公庁の方など、幅広く取っていただきたいと思っている資格です。

 なぜかというと、技術が伸びるには技術の目利きをする人のレベルが上がる必要があると思っているからです。特にビジネスをつくる側、あるいは発注する側のリテラシーを上げてもらうことによって、いい技術がきちんと伸びるという仕組みになっていくのではないかと思っています。

 このG検定は始めてまだ2年ほどですが、すでに1万5000人の方に受験していただいていて、1万人近い方が合格されているということで、もし、AI、ディープラーニングに興味がある方は、G検定を受けるということを考えてもらえるといいかなと思っています。

 E資格はエンジニアの方向けのもので、プログラミングなど数理的なかなり専門的なことを問う資格試験になります。こちらの方も順調に増えており、実際にバリバリに開発したいという方は、1つの目標にしてもらえるといいのかなと思っています。


●高専生に注目して人材育成-「高専DCON」の試み


 このように、日本全体でディープラーニングの知識を持った人、そうした開発ができる人を増やしていきたいということでそのための活動を行っていますが、もう1つこのディープラーニング協会の活動として非常に新しい取り組みが、高等専門学校の生徒(高専生)にディープラーニングを教えるというものです。

 ディープラーニングという技術は、やはり現状では、画像認識において非常に大きなパフォーマンスを発揮します。しかし、画像認識は認識するだけではあまり意味がなくて、認識した後にどうするのかということが重要になりますから、アクチュエータ、つまり認識した後の動作を生み出すようなモーターや制御、それからカメラをどうやって置くのかなど、カメラからの通信の問題や電源の問題といったあたりもまとめて開発する必要があるのです。

 このあたりは、情報系の研究者や技術者には少し敷居が高いところですが、ハードウェアの技術をきちんと持った人がディープラーニングを勉強すると、もともとそういった機械、電気のスキルがあるわけですから非常にスムーズにいろいろな活用がしていけるということで、高専生に注目をして「高専DCON」(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)というものを作りました。2019年4月に第1回の大会が開かれたわけですが、全国から18チームの応募があり、その中の8チームが予選を通過しました。


●4億円の評価を得た1位の長岡高専が考えた実用的アイデア


 各チームに「ディープラーニング×ハードウェア」のプロジェクトを持ち寄ってもらい、特に技術面ではなくてビジネス面、事業面のプレゼンをしてもらいます。つまり、「こういう技術を使って、こういうようなビジネスが可能だ」というピッチをしてもらうのです。それに対して、ベンチャーキャピタリストが、「実際にそのチームが会社だとしたら、いくらの価値があるのか」という企業評価、バリュエーションを決めます。このバリュエーションの額が高い方が勝ち、というコンテストです。従来の高専のコンテストである、技術的なものを見るようなコンテストなどとは一線を画しており、ビジネスとしての評価をするというものです。

 高専生は最初ビジネスについて分からないことが多いので、各チームにメンターを付けます。それもかなり実力のある、時には上場会社の社長クラスの方にメンターに付いていただいて、ピッチをやったのです。その結果、1位になったのは長岡高専(長岡工業高等専門学校...
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