●霞が関文化が崩壊する中、遅れる人材育成システムの再設計
―― (日本の場合には)政党政治が相当機能しなくなっても、霞が関文化があれば大丈夫だという認識があった。しかし現在は、霞が関の方がへたってきているようです。
曽根 そうなのです。政治主導はかなり進みました。そのことは事実として認めるべきですね。だけど、霞が関をうまく使いこなすという部分で、劣化が起きてしまった。それは改革の副作用です。これを何とか回復しないと、大学生が役所へ入るための試験を受けないという話になってきてしまいます。
これも昔お話ししたことがあるかもしれませんが、自治省があった時代に勉強会で当時の課長に話を伺ったことがあります。その人は東大出身でした。東大だと先輩がリクルートにきて、うちの省に来れば一生面倒を見るといわれたそうです。「一生面倒を見るとはどういうことですか」と尋ねると、「3回天下りさせてやる」と。
大学生に3回天下りさせてやるというのを、リクルートの売り文句にするのですかね。私は慶應でしたから、そんなことは知らないわけですけどね。天下りは、やはりワンセットだったのですね。その手も効かなくなってしまったわけです。
―― そうですよね。今では、局長で辞めて、最初の4年間程度待って、その次の4年間でなんとか次のポストを見つけられるという流れです。同期が25人ほどいると60代半ばくらいまでに(ポストに)困窮する役人が出てくる。天下りの方も禁じられている。役人として務めているときには、自分の能力が成長しているとは思えない仕事を強いられる。このまま放っておくと、日本にあった霞が関文化は実質上、壊れてきますよね。
曽根 天下りが良いとはいいませんが、中には天下りとか関係なく、能力があるので次のポストを得るという人がいる。それは人材リクルート源として、非常に重要です。天下りというのは自民党の長期に安定した政権が続いている時代の仕組として残っていたんでしょうね。それを、政権交代が起こり、あるいは、国民の監視が厳しくなり、天下りも認められない時代になったときに、どのように設計し直すかという部分が遅れている。そのために、割を食ってしまう人が出てくるのですよね。
●官僚の採用や育成のシステムは大きな問題を抱えている
―― 会社でいうと、人事戦略は一番根幹ですよね。その根幹の問題を、今のところ誰も考えていないでしょう。政治家も考えていないし、それから今の幹部も考えていない。そのまま突っ込んでいくと、非常にリスキーですよね。
曽根 人材に関しては、誰でも必要で重要だというんですよ。だけど、公務員試験は今のままで良いんですか。本当に良い人が採れていますか。ここから手を付けなければならないのかもしれませんね。
―― 少なくとも山のように役人志望の人が集まってくる時代ではありません。そのようなときに、集まってきた数少ない志望者をはみ出させてしまうような試験を行うこと自体が、そもそも間違いですよね。なかなか根深い問題だと思いませんか。
曽根 根深いですね。知識型で、かつ解答を素早くするためには、難しい問題を避けて、答えが出せる問題から取り組む。そのような手法が身に付いてしまうと、われわれが本当に必要としている、地頭が強いとか、未知の問題にも果敢に挑戦するという、本当の必要な人間が採用されない。
―― そうですね。そういう人材については、全然見られていないですよね。
曽根 そうですよね。実は公務員の国際比較はあまりされていません。ハーバードのケネディスクールなどを見ると、日本人以外に、中国人や韓国人の留学生もいます。中国人や韓国人は、それをステップにして次に行こうと考えているので、非常に真剣なわけですよ。日本の官僚たちは2年間の休暇だと思っている。
これはジョークではないのですが、ハーバード大学の先生に聞いたところ、ハーバード大学のケネディスクールにはMPP(Master of Public Policy)というものがあります。これはフラッグシップですよ。MPA(Master of Public Administration)は、その次のランクです。ところが、両方受かった日本の官僚から、MPPからMPAに替えてくれと申し込まれたというのです。何を考えているのか。
―― なるほど。楽な方に行きたい、と。
曽根 1年で実質終わってしまうのですよ。
―― あとは遊びだ、と。
曽根 この留学を含めたトレーニングシステムをどのように改革するのか。人材育成に関しては、話が尽きないくらい、皆からアイデアは出てくるんだけど、それを実行に移す際にどうするのか。そこですよね。
―― このままだと、どんどんクオリティが落ちていく。
曽根 公務員を外国から採るというわけには、多分いかないでしょう。
―― そうでしょうね。
曽根 自衛隊員を...