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小選挙区にとって代わる良い選挙制度はあるのか

民主主義と政治(4)選挙制度と代表性の関係

情報・テキスト
選挙制度は、われわれ市民の声がどのように政治に反映されるのか、その方向性を決める、非常に重要な制度である。しかし、この選挙制度をどのように設計するのがベストなのか、政治学者の間にコンセンサスはまだない。曽根泰教氏は、選挙が誰の声をどのように届けるのかという代表性の視点から、現代の日本政治を読み解く。また、日本の国政では政治家の仕事を役人が肩代わりしてきた側面があることを鋭く指摘する。(全8話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:10:54
収録日:2019/08/28
追加日:2019/09/28
キーワード:
≪全文≫

●ベストな選挙制度に関してコンセンサスは存在しない


曽根 選挙制度に関して、われられはジョークでいうのですが、政治学者が集まったときにしてはいけない2つの質問があります。1つは小選挙区と比例代表のどちらが良いのか。議論は永遠に終わりません。もう1つは、大統領制と議院内閣制のどちらが良いのか。これも議論は永遠に終わらない。

 実際、私は昔、学会でカリフォルニア大学のアーバイン校に行った時、ハリー・エクシュタイン(アメリカの政治学者)やデイヴィッド・イーストン(アメリカの政治学者)など昔の教科書で見たような人に会って、「まだ生きていらした」という思いがしました。

 20人程度の比較政治の学者が集まったところに、たまたまエストニアの人がやって来て、「うちはこれから憲法を作るのですが、どういう制度が良いでしょうか。大統領制と議院内閣制のどちらが良いですか」と質問をしました。すると、政治学者たちが2時間論争しても終わらない。このように選挙制度や、大統領制と議院内閣制のどちらが良いかという議論は、永遠に終わりません。つまり最終的な答えはないのです。

 冷戦後、何が起きたかというと、ほとんどの国で小選挙区と比例代表の組み合わせが取られます。これを「ミックス・システム」と呼びます。これは制度としては、最終的には妥協なのです。両者の主張を取り込んだ制度なのですね。


●選挙制度、政党、代表性の複雑な関係


曽根 では、比例代表、小選挙区に代わる決定的に良い選挙制度はあるのかと問われると、今のところ答えはないのです。中選挙区には1つの可能性があります。しかし、中選挙区時代の欠陥は、これまでに述べたようにお金がかかり過ぎる。それからマニフェストで選挙はできないということですね。自民党から5人立候補者がいたら、全員同じマニフェストで戦うということは有り得ないですね。そうすると、個人型の選挙にならざるを得なくなる。したがって、政党が責任を持つという選挙ではないわけです。

 では、政党は責任を持たなくてもいいのか、個人が責任を持てばいいのかというと、これでは政党政治が成り立たない。それでなくても、今の世界は政党がボコボコに叩かれるため、政党を立て直すにはどうしたらいいのかという時代です。政党を立て直すのは難問中の難問になってしまいました。

 ご質問の、どのような条件で政党が発生するのかという点ですが、地方の議会の人々は、「政党なんて要らない」といいます。しかし、「違うでしょう。選挙と議会があると政党はできますよ」と問かけます。「政党」と呼ぶか呼ばないかは別として、選挙で多数派を取るためには、政党が必要でしょう。議会で多数派を取るためには、政党が必要でしょう、と。

 議長指名のときの選挙で多数派ができるんですが、ただ、地方議会においても大いに誤解があります。ほとんどの行政学者、地方自治の専門家は、二元代表制といって、議会と首長は対等だと主張していますが、私は有り得ないといっているわけです。

 なぜかというと、アメリカは大統領に立法権がなくても大統領制です(二元代表制とはいわない)。それなのに日本の地方議会では、首長は条例制定権も予算制定権も持っている。要するに執行権がある。議会にはかろうじて条例制定権、つまり立法権がありますが、現実に使っている地方議会なんて本当に少ないですよね。

 二元代表制と呼んで、あたかも対等の関係であるかのように主張していますが、現実を見誤っているということを認識して、そこを出発点にしないと地方自治は語れないといっているのですが、そういう研究者は本当に少数です。99パーセントとはいいませんが、95パーセント程度は二元代表制の議論ですね。

 だから、地方の議会の役割って何なのでしょうか。首長のマニュフェストを徹底的に検証して、国民や市民に代わってデータを明らかにし、根拠のない予算は通さない。ところが、実態はどうなのかというと、無所属や無党派で出てくるわけですが、そうすると、自分の主張を首長の予算にどう潜り込ませるかという方向に向かってしまうわけです。だから、与野党相乗りの選挙になり、責任の所在が分からなくなるのですね。

―― そうですね。全員与党みたいな感じですね。

曽根 そういうことですね。だから、党派制を強くすると問題ですが、党派制がなくて全員相乗りというのも問題です。

―― 共産党以外、全員相乗り。

曽根 全員相乗りの場合、どこに責任の所在があるのでしょうか。日本政治は良いように見えるところがあるわけですね。安倍晋三さんは長期政権をつないでいます。良いように見えますが、問題点はやはりかなりあるということですね。

 選挙制度に関していえば、参議院の選挙制度は、理念がよく分からない。都道府県議会の選挙制度は...
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