●習近平には国を治めるだけの良識や指導力がある
―― 丹羽前中国大使は、伊藤忠商事の時代も含めて、習近平に何度も直接会われ、「両国は住所変更できない間柄です」と言い交されている仲です。日本人で、習近平に直接会われた方は他にほとんどいません。習近平について、先生はどのようなイメージをお持ちでしょうか。
丹羽 習近平さんはまっとうな人です。国を治めるには、中国14億人の中で頭の出来がナンバーワンでなければならないわけではありません。習近平より頭の良い人は他にもいるでしょう。ですが、彼は国を治めるだけの良識や指導力を持っています。だから、その下に、李克強をはじめとした、非常に頭の良い有能な人材を置けばよいのではないでしょうか。
―― 習近平は、文革で下放されています。また、お父さんは毛沢東の4大将軍の一人・習仲勲で、毛沢東の怖さもすごさも知っていた人です。自分も父親も苦しい目に遭っていて、父親からも当時の話を聞いてないはずがありません。ですから、ただの太子党の人とは違います。さらに、福建省長の時代に出世の遅れた習近平を2000人くらいの華僑が助けに来ました。それは祖父が華僑だったからかどうかは分かりませんけれども、国を治めるという意味では、類まれなる逸材が出たのではないかと思うのですが。
丹羽 偉くなると、皆そのように言うけれど、失敗すれば「あれは大したことない」と言うでしょう。運良く偉くなれば、その人の全部が良くなってしまう。しかし、人間なんてものはそうではないのです。皆同じようなものです。妬み、やっかみ、ひがみもあるし、寒いときは暖房が欲しいし、暑くなれば冷房が欲しい、お腹が空いたら食べたい。習近平も一緒です。
問題は、国を思う気持ちがどれだけあるか。そして、自分の部下、下で働いている人たちのことをどれだけ考えられるか。また、部下たちがどれだけアイデアを吸収し、それを実行に移していけるか。人をまとめて動かしていく力をどれだけ持っているかが勝負です。
習近平一人では何もできません。だから、彼がいろいろなアイデアを吸収して、それを部下に適切に表していき、また部下を要所要所に配置しなくてはならない。そのような力は多分あるのではないでしょうか。そこが彼の強みでしょう。
●第2次習近平体制までに、少しきれいにしなくては
―― 2017年に、今のチャイナ・セブンが、李克強を除いて替り、栗戦書、汪洋などが出てきて本当の習近平時代が始まると、先生はこの本(『中国の大問題』)に書かれていました。
丹羽 おそらく孫政才、胡春華、それから李源潮もぎりぎり残るのではないでしょうか。それから、汪洋や、新疆にいた張春賢、このような連中が、2017年以降の第2次習近平体制で出てくるでしょう。
―― 中国には中央党校があり、共産党幹部を鍛えるトレーニングがかなりしっかりしているとお聞きしました。
丹羽 そうです。ただ、金太郎飴のようにどのドアをたたいても同じ答えが返ってくるのでは、これからの国民を引っ張っていくのは難しいかもしれません。国民にもいろいろな考え方の人が現れてきましたから。インターネットなども利用して、労働者の教育もしながら、国の利益の配分をできるだけ適切にやっていくかが肝心でしょう。
今の中国は、一部の人間だけに富を渡していく方向に行っているらしいけれど、習近平と李克強は改革の中でそれを改めようとしているのでしょう。その改革を失敗するようだと、国内に不満が溜まるかもしれません。
―― 石油利権の周永康を摘発したときも驚いたのですが、今度は人民解放軍の徐才厚まで摘発しました。あれはものすごい実行力だと思いました。
丹羽 それは、周永康になかなか手が付けにくかったからでしょう。その腹心である徐才厚は、江沢民派の重鎮ですから、その辺はさまざまな政治的な思いや対応があったのではないかと思います。8月は北戴河で長老との話し合いの時期です。そこで長老の理解も得ながら政治的な話し合いを進めていくのではないでしょうか。
その点、習近平はなかなか頭が良いです。彼は、周永康や徐才厚の摘発について、個人的にはすでに結論を出していると思いますが、一応長老を立てて、「あなたの親しかった方ですけれども」と説明するのではないですか。自分のためではなく、国のために摘発するのだということを話すと思います。第2次習近平体制まであと数年ありますから、その間にある程度汚れを取って、清流とは言わなくても、少しはきれいにしておかなくてはならないのでしょう。
●少し緩めないと具合が悪いと判断できる主席
―― 今の中国共産党は、幹部のごく一部だけに金が集中的に流れているそうですが。
丹羽 それは、アメリカでも日本でも韓国でも、どの世界でも人間が集まる...