●バイアグラやシアリス、前立腺肥大症の薬の意外な可能性
そして、もう1つの薬剤として、PDE5阻害薬というものがあります。
PDE5阻害薬とは、皆さんよくご存知のバイアグラや、シアリスといった薬です。現在では前立腺の肥大症に対する薬として、ザルティアという薬もあります。これは保険で適用になっています。ですから、お小水の具合が悪い方の中には、これを飲まれている方もいるかもしれません。
このスライドは、ある実験的な研究で、実験動物にウイルスを吸い込ませて肺炎をつくるのですが、(ザルティアを飲んでいた群と飲ませなかった群とでは)ザルティアを飲んでいた群は明らかに肺の中の炎症、肺炎が少なくなっています。
そして、先ほどお話しした、悪玉免疫細胞であるMDSCも、PDE5阻害薬によって抑えることができます。癌の免疫とウイルスの免疫は非常に近いとお話ししましたが、このタダラフィル(ザルティア)は、大きな手術をした後に服用することによって、癌の転移をある程度防ぐこともできます。このことについての研究発表も、ごく最近、出てきております。非常に興味深い結果ではないかと思います。
●免疫細胞を弱らせるのは活性酸素による酸化ストレスである
このスライドは、癌の細胞に対して抗腫瘍細胞であるTセルがアタックする時に、MDSC細胞が邪魔をする仕組みを示しています。邪魔の仕方が重要です。MDSC細胞は活性酸素を出すことによって、免疫細胞を弱らせてしまいます。一種の悪玉で、悪い物質を出す作用があるのです。今お話ししたタダラフィルはMDSC細胞の作用を抑える結果があるのですが、この活性酸素による酸化ストレスについて、もう少し考えてみたいと思います。
MDSC細胞は、酸化ストレスを出すことによって、免疫細胞を抑えます。もちろん酸化ストレスはMDSC細胞だけではなく、われわれの体の中で日常的に起こっています。
●酸化ストレスは有害物質や食べ過ぎによっても発生する
これは紫外線やタバコなど、いろいろな有害物質などによって起こります。またこれと同時に、われわれがご飯を食べてエネルギーを作る際には、同時に、この活性酸素が出てきてしまいます。ですから、食べ過ぎてしまうと、体の中で活性酸素が増え、酸化ストレスが高い状態になります。
活性酸素が働いていくと、いわゆる「錆びる反応」が出ます。例えば金属が錆びたり、りんごの切り口が茶色になったりする現象は、すべて酸化反応です。同じような反応が、体の中にも起きてくるということです。そして特に、免疫力を下げる結果となってきます。
●加齢や心理的ストレスなどでも、酸化ストレスは増大する
これは、DNAの酸化ストレスの値を測ったものです。やはり年齢が上がってくると、酸化ストレスが増加してくる傾向にあります。もちろん、年齢だけではなく個人差もあります。40代の人と80代の人が同じくらいの酸化ストレスであるというケースも多々有ります。
この酸化ストレスが増えてくる病態が、いくつかあります。1つは心理的なストレスです。交感神経が非常に緊張すると、実は、体の中でも活性酸素が増えます。あるいは、高血糖や肥満、高血圧、タバコ、腎臓が悪くなる場合などにおいては、活性酸素が増えます。そのため、例えば風邪をひきやすい状態は、疲れた時や大酒を飲んだ時、食べ過ぎた時などいろいろなケースがあると思いますが、その時は、活性酸素がたくさん出て、免疫力が落ちた状態だと考えられます。
●酸化ストレスを減らすにはどうしたら良いか
それでは、酸化ストレスを減らすにはどうしたら良いのでしょうか。このためにはやはり、運動を定期的に行うことが重要です。そして、食べ過ぎ、飲み過ぎ、カロリーの過剰摂取をしない。あるいは、バラエティーに富んだ食事をとっていただく。そして、ストレスを解消することが重要です。これらは、日常生活に関する非常に当たり前で分かりやすい注意事項です。しかし実はこれが、免疫力と深く関わってくるということになります。
●人類とウイルスの戦争に備えて日々の体調管理を
こちらは、先ほどお話しした黄熱病に関わる絵です。この黄熱病は、ハイチでも生じました。ナポレオンの時代に、ハイチはフランスが統治していました...