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国家のリーダーが肝に銘ずるべき鉄則には3つの次元がある

危機下のリーダーシップ、その要諦とは(3)変化に応じたリーダーシップ

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
「自国ファースト」でない主権独立国家などはあり得ない。日本もその例外ではないが、日本には日本の自国ファーストとグローバル・イシューのバランスの取り方があるはずで、それはアメリカの戦略とは異なるものだ。重要なのは、リーダーは国家戦略、総合政治戦略、戦術という3つの次元で考えるべきということ、その際に本質・実体・現象をらせん構造で結びつけていくべきだということである。(全3話中第3話)
時間:11:34
収録日:2020/07/17
追加日:2020/09/07
キーワード:
≪全文≫

●日本としての自国ファーストとグローバル・イシューのバランス


 皆さん、こんにちは。

 前回は、日本もせんじ詰めれば自国ファーストの国だと、ややショッキングな表現をいたしましたが、要するに私の言いたいところは、自国ファーストでない国というのは、主権独立国家としてはあり得ない。ただ、それが極端かどうか、あるいはグローバル・イシューとのバランスを失しているかどうかという違いであります。

 この点において、日本はどの政権であっても、これは民主党政権下の首相であっても、基本的には野田佳彦元総理や、あるいは現在の安倍晋三総理にしても、この2人が自国ファーストでない、または自国ファーストであるというようなことに関して2人とも、つまり日本の総理大臣は基本的にそういう普通の良識的な首相であるならば、この自国ファーストとグローバル・イシューのバランスを取っているということを言いたかったのです。


●WHO拠出金に見る日米の国家戦略の違い


 これとドナルド・トランプ習近平両氏のような立場を比較しても、それは違うというのはまったくその通りであります。日本はそれでもこのバランスの中でWHOへの拠出金というのは拒否しないし、代わりに実際日本は、そこが日本のある意味では巧みなところだと思いますが、日本はただの善人、ただの善意あふれる国家ではない。それはやはり日本もまたこの厳しい国際関係に生きている以上、WHOに拠出金は拒否しない。それは国連分担金を拒否しないのと同じである。代わりに日本は発言権を持つ。発言権をできるだけ大きく確保する。こういう道を選んでいるということです。

 WHOが中国の影響下にあることはほとんど明白でありますが、アメリカが考えたのは現状のままWHOと関係を続けるのは、アメリカにとってデメリットが大きいと判断したからなのでしょう。日本にとっては、これは留まる方が自国にとってトータルメリットがあると判断したから残るということです。日米同盟関係といっても、日本とアメリカはそこにおいてグローバル・イシューに関して、判断が違う部分が出てくるのは当然のことです。日本はリスクやコストを比較して、自国の利益が大きい道はどれかを判断した。そのとき、アメリカと違ってWHOに留まる道を選んでいる。これが国家戦略というものなのです。


●国家戦略・総合政治戦略・戦術を組み合わせ、らせん構造で捉える


 新型コロナ対策において、さまざまな批判を受けていても、日本の政府や日本の各省庁の官僚は、いかにして国益を最大化していくのか、包括的な議論のうえで総合政治戦略をどのように打ち出していくのか。こういうことをきちんと考えようということなのです。

 このとき、リーダーが肝に銘じなければならない鉄則は、あらゆる問題を狭い選択肢で考えてはならないということです。私は今も少し触れましたし、話の中で続けてきましたが、3つの次元、すなわち国家戦略、総合政治戦略、そして戦術というこの3つの段階で考えなければいけないということです。

 これは弁証法的にいうと、ある意味ではらせんを描くようにする。ストレートに3つが結びつくのではなくて、ある種のらせん構造を描くようにしてこの3つが結びついていく。つまり、本質・実体・現象ということです。現象だけを見ているのではない。それを本質という、ある意味では理想にすたんと落としていくのではなくて、そこに現実性を持った究極的な理想像や理想と、現象的なある現実性というものを結びつけていくような実体という段階を経ることによって、この本質・実体・現象という3要素を区分し、そして区分的に理解することにより、最適解、一番ふさわしい回答が得られるということを模索しなくてはならない、ということです。


●国家戦略の手前に総合政治戦略のクッションを置く


 韓国の文在寅大統領の例をちょっと考えてみたいと思います。文在寅大統領はアメリカ、中国とあたかも等距離の外交を進める、そのことによって南北接近から南北統一を実現しようとしている。これは彼にとって最も重要な戦略の究極的な解でありますが、実際のこの今見えているわれわれの現象としての南北関係、現象としての韓国と中国の関係、中国とアメリカの関係、韓国と日本の関係というようなさまざまな現象的なものから、一挙に理想的かつ、彼にとっての本質的なものである南北統一というものに結びつけていく、というのはなかなか困難であります。

 そこには、より現実的、それを実現していくためのある種の現象と本質をつないでいく実体としての段階、すなわち究極的な国家戦略のもう一つ手前に、そういう総合的な政治戦略というものを置くことによって、歴史の文脈に基づいた国家戦略を究極的に実現していく遠大な理想を思い描いていく。そのために内外を納得させる総合政...
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