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「自国ファースト」は悪いかどうか、改めて考える必要がある

危機下のリーダーシップ、その要諦とは(2)「自国ファースト」とバランス感覚

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
危機の時代を突破するために、独裁制的リーダーシップを評価する向きがあるのは事実である。しかし、反対者を権力で抑圧し情報操作で事実をねじ曲げるようなやり方は、国民を幸せにできない。リーダーは法の支配を尊重したうえで、危機に対処しなければならないのだ。一方、新型コロナのようなグローバル・イシューでは各国の連携や協力が必要であると同時に、主権独立国家である以上、自国の利益も無視できないという問題がある。重要なのはグローバル・イシューと「自国ファースト」のバランスだと山内昌之氏は説く。(全3話中第2話)
時間:10:55
収録日:2020/07/17
追加日:2020/08/30
≪全文≫

●平和主義者・徳川家康がつくりあげた「パックス・トクガワーナ」


 皆さん、こんにちは。

 前回は織田信長、豊臣秀吉の国家的な指導者としての問題点、国民を平和裏に統合していくといった点で、非常に残酷、かつ殺りくを事とするような負の面をもっと見なければいけないというのが、私の考えだということを述べました。

 それと比べて平和主義者としての徳川家康、250年から270年の平和をつくりあげ、「パックス・トクガワーナ」という世界史屈指の時代をつくりあげた家康を評価したわけですが、そうした信長と比較し、そういう一種の独裁制がこういう危機の時代を突破するにはふさわしいのではないかという考えとして、習近平国家主席を評価する向きがあることについて、やや疑問を呈したところで終わりました。

 私はそうした残虐、殺りく、あるいは国家的な独裁者でなくても、家康のようにパックス・トクガワーナという平和の時代を実現できるのだということを、これからも考えていきたいと思っています。


●独裁制では危機を突破できない


 こうした独裁者がある意味では危機の時代を突破できるというのは、手段というものを問わず、そして不平不満を抑えつけ、異議申し立てをする人たちをいわば消去していく、といったようなことをすれば、例えば現代の香港における自由と民主主義の抑圧のプロセスなどを見ていけば、そこで反対論者たちがいなくなる、というのはもちろん容易なことです。

 しかし、こうしたある意味では当たり前の結果、独裁者であれば当たり前の結果に関して、それをそのまま認めてよろしいのか、という問題にもなります。情報を統制して、時には基本的な事実、ファクトをねじまげて否定することさえ辞さない、そして、誤った情報を操作することによって国民を、長い射程で見るならば不幸な形で誘導していくというような、こうした個性というものは、危険であるのみならず危機そのものもなかったかのように演出することさえしてしまう。

 武漢のウィルス、武漢発生の新型コロナウィルスのようなものも、一体どこから出たのかということさえも、総体化し記憶から消し去ろうとする試みさえ、一部では行われているということの危険性を見なければなりません。


●リーダーは法の支配を尊重し、危機に対処すべき


 しかし、われわれはリベラルな民主主義を標榜する国に生きているわけです。つまり、リーダーというのは基本的な資質として、何よりも法の支配のもとにおいて危機に対処する。この法の支配を尊重するという自覚と覚悟を持ちながら、危機に対処しなければならないのです。

 日本は平和主義国家であり、戦争を繰り返さないと誓い、そして国民の生命の安全を追求する国であります。そうである以上、権力の安定化のためには隠蔽をしたり、あるいは粛清へとつながりかねない独裁制というものは、われわれの政治的なある理想像や政治的な選択肢から取り除かなければいけないのは言うまでもないことであります。

 こういう歴史上の独裁制、あるいは独裁的傾向を帯びた制度というものに対して評価することの危険性は、あたかも日本史でいうと、信長や秀吉を賛美して家康のような地味な政治家、しかし戦略的に一番優れた針路を指し示し、それが基本的に成功したというような人と比べるとよく分かります。人生の究極的な差異というものは、独裁者がいかに危ういものであるか、危うい存在であるかという事実を知って後世に生きている私たちにとっては、端的にその危険性を教えてくれるという点で、多くの事を学ばなければいけないかと思います。


●主権独立国家の「自国ファースト」とバランス感覚


 少し違う視点かもしれませんが、現在の世界を見渡すとドナルド・トランプ大統領に代表されるように、多くの国家指導者がアメリカ・ファーストといったような自国ファーストを掲げております。新型コロナのようなグローバル・イシューにおいては、各国の横の連携、連絡・提携が不可欠です。その意味で、自国ファーストという立場を強調するリーダーには不安を覚える人も多いかと思います。

 しかし、自国ファーストという言葉自体が悪いかどうかということに関しては、立ち止まって考える必要があります。そもそも主権独立国家であるならば、本来的には自国の利益を尊重するのは当たり前なわけですから、その意味でかっこ付きで使うとすれば、「自国ファースト」でない国というのは存在しません。「自国ファースト」ではなくて「自国よりも世界を優先する」と声高々に宣言するような指導者というのは、いるでしょうか。あるいは、ひょっとしてものの見方によっては、ついこの間の日本には1人2人いたかもしれません。しかし、こういう指導者を一体どこの国でも国民は尊敬するか、または支持するかという問題で...
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