●オシラク原子炉爆撃にみる、イスラエル流先制攻撃
イスラエルは、先制攻撃が基本なのです。どういうことかというと、1981年の6月7日に突然、イスラエル空軍のジェット戦闘爆撃隊がイラクの上空に飛び、バグダッド郊外で猛烈な爆撃をしたのです。一帯はこっぱみじんになってしまう。同盟国にも、もちろんイラクにも、事前通告などは全くなかったものですから、世界中で「イスラエルは何をやっているのだ?」ということになりました。ところが、噴煙の中から見えてきたのが、地下にあったオシラク原子炉と原子装置なのです。
この空爆を命令したのはメナヘム・ベギンさんという首相で、大変立派な人なのですが、その彼の主張は、「そら見たことか。サダム・フセインが核兵器製造を手掛けていたではないか。私どもがそれを感知して、先にその根を絶ったのだ」というものでした。これがイスラエル流なのです。すごいですよね。
●イランのレッドライン問題が示したイスラエルの国是・先制攻撃
もう一つ。今、イスラエルは、イランの問題でオバマさんをものすごく批判的に見ているのです。なぜかというと、イランは核開発をやっていますが、ミサイルはあまり良いものを持っていません。湾岸戦争の時に、スカッドミサイルをイスラエルに散々叩き込んでいたのですが、これはどこへ行くのか分からない、狙うと言っても狙えないようなミサイルだったのです。
ところが、最近は相当良いミサイルを持ちだしたという情報があるのです。なぜ、そのようなことが分かるのかというと、イスラエルには「モサド」という世界最強の諜報・情報機関があり、これが確認しているのだと思います。
そのミサイルはほとんど北朝鮮から入手しているはずです。今、北朝鮮のミサイル技術はものすごく向上し、日本列島のいろいろな所をかなり正確に狙えるようになっていますし、アメリカまでも飛ばせます。ということは、イランの当局者がボタンを一つ押せば、イスラエルは壊滅させられてしまうということです。これは、レッドラインなのです。オバマさんもそう言って、「レッドラインを超えるようなことになれば、アメリカは同盟国のイスラエルを救います」ということになっていました。
そこで、去年の春に、「イランはレッドラインを超えた」という報告を、ナタニエフさんがアメリカ当局にするのですが、オバマさんが「ちょっと待ってくれ、調査しなければ分からない」と言ったのです。
これは、無二の同盟関係だったアメリカとイスラエルの間に亀裂が生じている、解釈が違っているということになるものですから、周辺アラブ諸国その他にとんでもないサイン、シグナルが送られるという状況になりました。そこで、「そういう無責任な態度は許せない」と、ナタニエフさんは怒っていまして、イスラエルとアメリカの関係は今、非常に冷え切ってしまっているのです。また、オバマさんは同盟国のサウジアラビアに対しても同じようなことをしてしまっているのです。そのようなこともあり、オバマさんの言動がいろいろな問題を引き起こしています。
ですから、イスラエルは、イランのどこに原子炉があるのかは、スパイ組織で調べて場所が分かっていますから、先ほどのオシラクのように、たちどころに壊滅させてしまいたい、それも1時間か2時間でやってしまいたい、と気持ちがはやっているのです。そういう国是ですから。
●イスラエルの先制攻撃の背景にあるトラウマの一つがホロコースト
では、なぜそのような国是を持つのか、という疑問があります。これには、いくつかのトラウマがあるのです。
そのトラウマの一つが、ホロコーストです。この写真を見てください。これは「ホロコースト・ミュージアム」といいます。エルサレムのとても静かな住宅地、小高い丘にあります。
中に入ると、大きな写真が展示されています。壁に写っているのは、白いドレスを着た女性の写真です。古いホロコースト博物館は、1948年のイスラエル独立直後の1950年にできたのですが、新しいホロコースト・ミュージアムは2005年にできました。とても静かなたたずまいです。
旧館は、ホロコーストがいかに残虐だったかという人殺しの場面をずっと見せていたのですが、新館はそうではなくて、ホロコーストで被害を受ける前のユダヤ人が、どれほど幸せな楽しい生活をヨーロッパ各地で送っていたかということをずっと見せます。今、お見せしているのが、その写真の一つです。これは、お祝いの席だと思います。このような写真がずっとあって、その後でものすごい殺戮(さつりく)の記録が始まるので、かえってこのホロコーストの恐ろしさ、残虐さが浮き立って見えます。
●アドルフ・ヒトラーの台頭
1930年代の初頭に、例のアドルフ・ヒトラーが台...