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「もう投資先がない」、資本主義が招いたパラドクスとは

デジタル全体主義を哲学的に考える(3)「人の資本主義」と場を開く人

中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
概要・テキスト
グローバル化された資本主義は、国内外でさらなる格差を生み出し、もはや資本主義とは言えない事態を招いている。差異の消費を基盤としたこれまでの資本主義のあり方を見直し、人の生を豊かにする「人の資本主義」へと変容することが重要だ。(全7話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:50
収録日:2021/05/28
追加日:2021/11/19
タグ:
≪全文≫

●消費に拠らない資本主義のあり方を構想する


―― 資本主義的なグローバリズム、あるいはグローバル資本主義的なものの一つのあり方として、先生が近年挙げているのが、「人の資本主義」です。ちょうどテンミニッツTVでも、以前そのテーマでお話しいただいたことがあります。グローバリズム、あるいはグローバル資本主義の問題点を解決する一つの手立てとして、デモクラシーもありますが、もう一方で、資本主義のあり方自体を変えていくというのもあります。

中島 資本主義には、それ自体に歴史があると私は思っています。資本主義は別に同じシステムがずっと続いているわけではないと思います。もちろん基本は同じです。資本主義の基本は、時間を支配する形式だと私は思っているのですが、それが具体的に体現されるのは投資です。やはり投資をして、回収していく仕組みだと思います。

 ところが今の資本主義を見ていくと、例えば1パーセントの超々富裕層に莫大な資金が集まっています。しかしそれは投資されません。もう投資先がないというか、投資しなくてもお金が集まってしまうという、おかしなことになっています。資本主義のそういう基本的な構造から外れてしまっている感じです。資本主義がそれを招いたのですが、それが実は資本主義とは関係のないものをもたらしてしまったというパラドクスが生じている気がします。

―― よく投資と投機の違いといわれたりしますが、最近はお金を預けても、みんなAIで運用してしまいます。昔の銀行がやっていた、可能性のある技術に懸けて、それを育てるというイメージから、もう少し投機的なイメージになっているというお話ですか。

中島 それも含めてです。やはり資本主義自体を鍛え直さないといけない気がします。そのときのキーワードの一つとして考えてみたのが、「人の資本主義」という概念です。モノからコトへ、コトから人へというイメージを自分は持っています。

 資本主義は、モノをつくっていきます。良いモノをつくって、それを皆さんに買っていただいて、経済を回していきます。これがある段階では非常に優勢だったと思います。だから良いモノさえつくれば、売れると思われていました。しかし、だんだんモノが溢れてしまって、良いモノをつくっても売れません。次にどこに向かっていくかというと、今度はコトに向かいます。これを「コト消費」と言い、いろいろ...
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