デジタル全体主義を哲学的に考える
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王弼の議論で大事な概念「無」と「理」とは何か
デジタル全体主義を哲学的に考える(7)「無」と「理」、複数性の重要性
中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)
中国の三国時代の学者である王弼は、「無」という概念を用いて、キリスト教などの一神教とは異なる、偶然性に開かれた状態を志向する。さらに、他方で「理」という概念を持ち出して、複数性は無根拠によって支えられていると説き、それを喜ぶ方向に行ったほうがいいのではないかという。そうした思想は、今後のデモクラシーのあり方を考えていく上で非常に示唆的である。(全7話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:14分12秒
収録日:2021年5月27日
追加日:2021年12月17日
≪全文≫

●偶然性に開かれた、王弼の「無」という概念


―― この本(『全体主義の克服』)を読んでいて、マルクス・ガブリエルさんがやはりヨーロッパの方だなと思うのは、一神教のキリスト教の神がいる上での哲学という文化伝統との対峙を相当意識しているところです。例えば、一世代前のデリダなどは、いろいろやってはいたけど、まだ縛られているという発言があったり、われわれがある意味ではあまり持たないイメージのものを非常に問題意識として抱えているのだなと思いながら読みました。そこの違いは、先生も感じたりしますか。

中島 ガブリエルさんと話していて新鮮だなと思ったのは、本当にマルチリンガルな言語空間でモノを考えていることです。そういう哲学者が登場したのだと感じました。

―― マルチリンガルですか。

中島 はい。彼は中国語や、他の言語もできるのですが、そこでモノを考えると、言語が全く違うので、実は一神教的な神を想定しづらいのです。スイッチングしながら、ものを考えると、安定、超越した神がいて、それがこの世界の意味を統べているという発想にはたぶん行かないと思います。最初から根源的な複数性に開かれていっているのが、私たちの世界のあり方なのだというイメージをお持ちだと思います。だから、何としても彼はそのキリスト教的な縛りから出ようとしています。それは彼の世代にとっては、その前の世代をどう乗り越えていくかという、大きな問題ですよね。

―― はい。

中島 何といっても、ハイデガー問題です。ハイデガーを乗り越えないといけません。ハイデガーは非常に神学的な構えの中で展開していった人なので、そうではない道を見いださないといけないというのは、彼のある意味で使命だと思います。

 そういう中で、彼は例えば無の形而上学を考えた六朝時代の中国の王弼(おうひつ)を高く評価します。どう評価するかというと、まさに偶然に開かれた哲学を考えているのではないかと評価します。その王弼の「無」は、そのキリスト教的な神とは異なっていて、特に「無」なので、否定神学的な神の構えをしていません。

―― 否定神学はどういう神学なのですか。

中島 否定神学は、人間の言葉では神は捕まえられないので、否定形でしか言えないということです。

―― 「神は〇〇ではない」などの言い方になっていくということですか。

中島 はい。しかし、結局は否...

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