『孫子』を読む:虚実篇
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「戦略の極地は無形にある」ということを忘れてはいけない
『孫子』を読む:虚実篇(3)無形の重要性
田口佳史(東洋思想研究家)
昔の戦争でも、現代のビジネス戦略でも、こちらの動きを相手に悟られないことは重要だ。社内の状況や実態がライバル企業に筒抜けだったり、事業戦略が事前に読まれたりするようでは企業の存亡さえも左右する。このようなときこそ、予想もできない戦略で相手を翻弄して成功に結びつけることが大切だが、そのときの最大のポイントは「無形」だと孫子は説いている。(全6話中第3話)
時間:8分44秒
収録日:2020年5月21日
追加日:2022年1月17日
カテゴリー:
≪全文≫

●相手に悟られない戦略とは何か


 さて、「進みて禦<ふせ>ぐ可からざるは」ですが、進んで敵を防ぐことができない、つまりこちらが進んで攻めていくときに敵が防ぐことができないのは、何といっても「虚を衝けば」で、虚を衝かれたということがあります。例えば、不意に攻めてくるとは思わないところからパッと攻めてくる、虚を衝かれるということがあります。そういう状態を想定しなければいけません。

 さらに「退きて追ふ可からざる」ですが、自分たちが退陣するときに敵が追いつけないのは、「速<すみやか>にして及ぶ可からざればなり」というように、敵が及ばないくらいにさっと引き揚げることが重要だと言っています。これは現代のビジネスの戦略からいっても、敵に多くを悟られないことは一番重要です。そういう意味では、交渉事などのときにも、たぶん相手はこういうふうに言ってくるからこちらはこのようにしようと考えることができないとか、相手がどういう戦略でどのように言ってくるのかよく分からないなど、この「よく分からないという状態」をいつもつくっておくことが重要であるというわけです。

 それは何かというと、無形、無声ということです。つまり、敵の社内がどういう状況かよく分からないということです。そういう点では、会社の実態がよく手に取るように分かるというような状態というのは、こういう戦略論からいえばよろしくないということになります。だから、人間もそういう意味では、可能性ということとか自分の本当の実力などはあまりひけらかして見せつけたりしないほうが、いざというときに「あんな力があるんだ」と相手が驚くことになるということを教えてくれています。

 その次、「故に我戰はんと欲すれば、敵、塁を高くし溝を深くすと雖も、我と戰はざるを得ざるは、其の必ず救ふ所を攻むればなり」です。これは、自分が戦おうと思ったときに、敵がどれほどの防御をしても、「塁を高くし溝を深く」というのは、防御を高くしてさらに溝を深く掘って防御をするということですが、そのようなことをしても、自分と戦わざるを得なくなるようにするにはどうすればいいか、つまり、敵が防御態勢を崩してまで戦うようにするには、「必ず救ふ所を攻むればなり」で、敵が攻められたら困るというところを攻めること...

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