『孫子』を読む:虚実篇
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呉越の戦いに学ぶ「兵力よりも準備と戦略の重要性」
『孫子』を読む:虚実篇(4)備えなくして勝利なし
田口佳史(東洋思想研究家)
敵の兵のほうが多くても問題はない。敵の力を分散させて手薄なところを撃てばいい。鍵を握るのは戦略で、つねに主導権を握っているほうにいなければいけない。そのためには「備え」が大事である。呉の戦略家・孫子の教えを解説しながら「悲観的に準備して、楽観的に行動する」ことの重要性を説く。(全6話中第4話)
時間:11分23秒
収録日:2020年5月21日
追加日:2022年1月24日
カテゴリー:
≪全文≫

●敵の力を分散させて手薄なところを撃つ


 次は「能く衆を以て寡をうてば、則ち吾の與<とも>に戰ふ所は約なり」です。この約というのは貧弱という意味です。つまり、こちらがある程度のまとまりある人数を持っているのに対して、敵はそれぞれ分かれている、そのようなところは手薄になるということです。そうなると、充実しているほう(こちら)が手薄なところ(敵)を撃つことになるわけですから、そういう意味では戦う場は敵が貧弱になるということです。

 そして「吾が與に戰ふ所の地、知る可からず」ですが、さらにいえば、そのようになって例えば敵が10カ所を守るとしても、10分の1ずつに分かれるとしたら、10カ所に分かれたうちのどこからこちらが攻めてくるのかよく分からないということになります。ですから、どこから攻めてくるか分からないくらいの恐怖はないわけです。したがって、「戰ふ所の地、知る可からず」になるのです。

 さらに「知る可からざれば、則ち敵の備ふる所のもの多し」で、もうどこが戦地になるか分からないということは、ありとあらゆるところに人間を配置しなければいけないということになります。備えるところばかりが多くなってくるのです。

 それから、「敵の備ふる所の者多ければ、則ち吾が與に戰ふ所のもの寡し」というように、敵が本来は30名で守っていなければいけないところを3カ所に分ければ、それぞれ10名ずつになるわけで、さらにそれを60カ所にするなどと増やしていけば、どんどん敵の地点の人数は少なくなってしまうわけです。ですから、こちらはもう簡単で、(それ以上の)大軍をもって少数を攻めるということで、それは非常に勝利が近くなるということです。

 次、「故に前に備ふれば則ち後寡く」です。孫子がすごいところは、一つ一つ具体的に全部文章にして言ってくれているのです。敵が前に備えれば敵の後ろは少なくなり、敵の後ろに備えれば前が少なくなります。敵の左に備えれば右が少なくなるし、右に備えれば左が少なくなります。そして「備へざる所無ければ」で、全てのところを備えようと思えば、「則ち寡からざる所無し」というように、全て少ないところになってしまうと言っています。つまり、一番敵が不利になってしまうわけです。
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