『孫子』を読む:虚実篇
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老子から孫子へ引き継がれた戦略論の極地
『孫子』を読む:虚実篇(5)「無形」の戦略論
田口佳史(東洋思想研究家)
「虚実篇」では主導権をどのようにして取るかが大きなテーマとなっているが、そのために重要とされるのは「無形」という戦略論だ。相手に読まれることなく弱点をつくためには、無の概念が非常に大事である。さらに、老子も「無」を説いているが、老子と孫子の違いはどこにあるのか。今回は戦略論の極地を読み解いていく。(全6話中第5話)
時間:11分37秒
収録日:2020年5月21日
追加日:2022年1月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●敵の強弱、特質を知る


 「故に之を策りて得失の計を知り、之を作<おこ>して動静の理を知り、之を形して死生の地を知り、之に角<ふ>れて有余不足の處<ところ>を知る」というところが大事です。

 まず、敵の状況はよく分かっていなければ駄目で、「之を策りて」は、敵情を考察して敵の特質を掴むことです。どういうところが備わっているのか、どういうところが備わっていないのか、要するに敵の弱点と長所、そうした強弱、特質など、そういうものをよく知らなければならないということです。

 さらに2つ目の「之を作して動静の理を知り」とは、敵にちょっと働きかけて、いろいろな観点から敵が動かざるを得ないような状態にしてみると、敵はどのような反応を示すか、その動静を知ることができるということです。パッと反応して、サッと防御態勢が取れるとか、攻撃態勢が取れれば、これは相当に準備してあると思わざる得ないわけです。そういうことで、動静の模様を知るということです。

 3番目の「之を形して死生の地を知り」ですが、こちらがあえて陣形を取ってみせることで、敵はどのように対応するかということが分かれば、「死生の地」、要するに勝敗というものがよく分かるということです。つまり、こちらがよほどの準備をしないと負けてしまうとか、これはそんなに難しくなく勝てるなど、そのような勝敗がよく見えてくるということです。

 4番目の「之に角<ふ>れて有余不足」ですが、その3番までやってもまだよく分からないときは、あえて先行部隊をパッと出して攻撃してみることで、それに対して敵がどういう反応を示すかが分かるということです。「之に角れて」というのは、そのような先行部隊を出して攻撃してみるということです。そうすると、「有余不足」というのは兵の過不足が、どこが足りていて、どこが足りていないのか、ということがよく分かると言っているのです。


●老子の「しなやかさ」と孫子の「したたかさ」


 その次、「故に兵を形するの極は、無形に至る。無形なれば、則ち深間も窺ふ能はず、智者も謀る能はず」です。

 前にも出てきましたが、無形ということの凄さをいうわけです。まず、孫子は無というものをとても多く扱っています。ここで思い出すのが老子であり、老子も無を説いていて...

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