●かつては「勝っても負けても2千万票」だった
今回は、「票と議席の行方」ということで、日本の選挙はどのような形で議席数と得票数が動いているかについてお話ししたいと思います。
1996年に小選挙区比例代表並立制が行われるようになって、ずいぶん経ちます。あるいは、2003年にマニフェスト選挙が行われるようになって以来、マニフェスト選挙もずいぶん行われています。
過去何回かの衆議院選挙、それから参議院選挙、いずれも小選挙区があり、参議院の場合は選挙区選挙があり、それから比例代表制がついています。比例と小選挙区の組み合わせであることには変わりがありません。それがどのような姿で動いているか、ざっくりしたお話をしたいと思います。
風が吹き始めて大量の当選者が出てくるという、2005年の小泉郵政選挙から日本の政治は変わったと言われていますが、実は、それまでは、自民党と民主党はほぼ2千万票ずつを取って、勝ったときは2千万票の後半、負けたときは2千万票の前半と、このような形で競争してきたのです。
実数で見ると、2005年小泉郵政選挙での自民党の勝利は、小選挙区で3千252万票と3千万票超えではありますが、しかし、この時でも、民主党は2千480万票を小選挙区で、比例でも2千万票を獲得しています。
●「3千万超え」から「消えた2千万票」へ
それが、政権交代選挙と言われている2009年の選挙で、民主党は3千300万票を取りました。それまで取っていた票を1千万票以上積み増して、小選挙区では3千300万、比例で2千900万と、どちらも約3千万に近い票を取ったのです。議席も308と圧勝しました。
2012年の選挙では自民党が圧勝して、議席数は294となります。ですが、得票数自体で言えば、それほど大きい数字ではなく、小選挙区で2千564万、比例で1千662万です。得票数自体はそれほど増えないのです。つまり、票を減らして議席を増やすという選挙だったのです。
ところが、この時に民主党は大敗しました。57議席しか取れなかったのですが、実は小選挙区で2千万票を減らしてしまいます。それから、比例でも2千万票を減らして963万票、小選挙区で1360万票という結果です。
つまり、2千万票がどこかに行ってしまったのです。民主党の敗因の検証委員会の時、私は「2千万票は一体どこに消えたのか」「その分析はできているのか」と、申し上げたことがあります。
●2012年の衆院選は、日本の政治の大転換点だった
そう考えると、2013年の参議院選挙、あるいは、今回の衆議院選挙では、民主党は回復していません。小選挙区で1千191万票、比例で977万票(注:左記は速報値、確定値は小選挙区1千192万票、比例978万票)と、だいたい1千万票くらいしか確保していません。ですから、回復したとしても、ピークのときの2千万票がどこかに行ってしまっているのです。
これを半分でも回復しないと、安定的な野党として活動が難しいのです。自民党の方は、得票数、つまり、投票率が下がりましたから、得票数は少なくても議席は十分取れます。そのような意味で言うと、2012年の選挙と今回2014年の選挙は、ほぼ同じような数字で移行しています。ですから、これを勝ったと言うのか、現状維持と言うのか、どちらにも解釈ができるのですが、今回は、投票率の増減によって大勝するような選挙ではなかったのです。
つまり、投票率というのは、実はこの2千万票をベースにしており、風が吹くとそれに上積みされ、風が吹かないと2千万票の前半くらいでとどまるということです。こういうゲームがずっと続いてきました。ですから、そういう意味で、どこが転換点だったかと言えば、中には2005年を大きな転換点と言う人もいますが、2012年の選挙で民主党が大敗し、2千万票がどこかに消えてしまった選挙が、一つの転換点だったと私は考えます。
今後、これをどのように組み立てるか。改めて野党がどのような戦略を立てるか、というのは、実はこの2012年の時の失われた2千万票をどう回復するか、次の選挙の時にそれをどのように獲得するかという戦略にかかっているのです。
実は戦略はあるのですが、ファクト、事実としてそこがどうなっているかということは分析がされていません。非常に難しいテーマです。ですが、これは学術的なテーマというよりも、現実政治でやらなければならない重要な課題の一つだと思います。
今回は、票と議席を考える、日本政治を考える上で非常に重要な点について申し上げました。