●ヘンリー8世の離婚願望で始まった英国国教会
―― 次にアメリカの主要な各宗派についてです。冒頭で先生がおっしゃったようにたくさんあるということなので、日本人にはなかなか理解が難しいところだと思いますが、簡単にご説明いただくと、どういうお話になりますでしょうか。
橋爪 主だったものだけで30、今は1000ぐらいあるので、いちいちお話しすることはできません。そこで、基本的なものについて説明すると、まず、イングランド国教会(Anglican Church)というものがある。次に、カルヴァン派の「会衆派」というものがあります。「会衆」というのは教会に集まった人びとという意味で、英語では“congregation”なので、会衆派は“Congregational Church”と呼ばれる教会に集まります。ピルグリム・ファーザーズが会衆派だったので、マサチューセッツ州に多い。
それから、会衆派と仲の悪いクエーカーがあり、アメリカらしい教会としてメソディスト、バプティストがあります。この5つについて説明しましょう。
―― ありがとうございます。
橋爪 まず、国教会がありますが、これはアメリカの教会ではなくイングランドの教会です。イングランドに、エリザベス1世の父親でヘンリー8世という人がいましたが、夫人のキャサリンと離婚したくなりました。しかし、キャサリンはスペインの王女でカトリック教徒で離婚が認められないので、「ローマ法王に言いつけます」ということになりました。
エリザベス女王の母になるアン・ブーリンという女性と結婚したかったヘンリー8世は、どうすれば離婚ができるかを画策して、「この際、カトリック教会と縁を切ってしまおう。イギリスの教会はイングランド国教会という名前にして、私がそのトップになる」と考えました。かなりめちゃめちゃですが、ドイツなどで宗教改革が起こっていて、イングランドもいつまでもカトリックでもしょうがないという側面もあり、このような乱暴な改革が行われました。
国王の命令なので、仕方なくそれを認めて、教会は独立することになりました。改革に反対するカトリック教徒もいましたが、弾圧を受けたりして大変な目に遭います。
●国教会のバージニア州、会衆派のマサチューセッツ州
橋爪 これは国王がつくった教会で、イングランドでは唯一の合法的な教会ということになっている。だから、原則からいうと、イングランドの植民地も、国教会でなければなりません。
―― なるほど。
橋爪 (イングランド)政府のつくったバージニアは、アメリカで最初にできた植民地ですが、そこでは国教会の信仰しか認められませんでした。それ以外の土地にも国教会があって、原則としては国教会に行きなさい、なのです。とは言え、初期の植民地は生活が不便で評判が悪く、働きづめで週末は酔っぱらい、教会に行く人はわずかしかいませんでした。
―― はい。
橋爪 (では教会へ)行くのはどういう人かというと、イングランドやヨーロッパで、信仰上の理由で迫害された人が多かったようです。
―― なるほど。
橋爪 バージニアよりもひと足遅れてマサチューセッツあたりに入植したピューリタンと呼ばれる人びとは、必ずしもイングランド国教会に属していたわけではない。そこでマサチューセッツ州では、ほとんどが会衆派の教会になって、国教会はあまりない。そのような植民地になったわけです。
それから、ニューヨークあたりははじめオランダ領だったので、「オランダ改革派」という教会が入っていました。この土地は、後からイギリス領になっていきます。このように、他の州もそれぞれみな特徴があるわけです。
●アメリカ独立の契機になった「会衆派」の信仰
橋爪 2番目の会衆派と国教会の違いの話に移りましょう。
国教会のトップはイングランド国王ですから、「イングランド国王に忠誠を尽くしましょう」というのが国教会です。イングランド国王は、税金を取るのですが、イングランドはお金がなくなったらしいので、印紙税やお茶税などの新しい税金をどんどんつくって、アメリカ植民地から取り立てようとしました。そこで、植民地の人びとが頭にきて、税金不払いの運動を起こす。その時に中心になったのが会衆派でした。会衆派はイエス・キリストのほうが大事なので、国王に対して忠誠を尽くすという思いに縛られることがありません。
―― はい。
橋爪 そういうわけで、こうした流れがアメリカ独立の大きな原動力の一つになったといえると思います。会衆派の特徴は、国王の権力を認めず、教会の本部などの権威も認めないところです。それぞれの教会が全部独立していて、隣の教会の言うことは聞かない人びとで構成されています。
―― そのあたりも、本当にカトリックとは全然違うということになるわけですね。
橋爪 そうですね。ひとつの...