●メガトレンドに沿い、100年続くビジネスをする
大上 今日はデュポン株式会社の田中能之社長に来ていただきました。いろいろとお話を伺いたいと思います。
デュポンは今、ケミカルからサイエンスへと転換しています。まず、そもそもどうしてそのような絞り込みができるのかということをお聞きしたいと思います。それから、実際にそれを実行していくには、かなり激しい変化が内部にあるのではないかと思うのですが、当事者として、その辺りをどのように見て、感じておられるのか、お話を聞かせていただけますか。
田中 はい。おっしゃる通り、中にいても、かなり激しく変化している最中だと感じます。ただ、「変化をしなくてはいけない」という考えは、以前からありました。200年を超えるデュポンという会社は、およそ100年ごとに大きな変化をしてきました。それは、「同じビジネスが100年、200年続くということは、なかなかない」という前提で物事を考えているからです。
1802年から1900年にかけては黒色火薬を手掛け、次の20世紀は、ケミカル企業として繊維やポリマーで会社を伸ばしてきました。ですから、多分このままだと次の100年は伸びないだろうという結論が、1900年代の終わりにすでに出ていました。そこで、デュポンがもともと持っているものをベースとして活かしながら、次の100年をどうしようかと考えました。今後しばらく続くと思われる社会の方向性を“メガトレンド”と呼び、メガトレンドに沿ったビジネスをしていくことで、100年くらい続くビジネスが描けるのではないかと私たちは見ています。では、今後はどのようなメガトレンドがあり、それに対してデュポンのどの技術が使えそうかという判断を、1900年代の終わりにしたのです。
今のところ、三つほどのメガトレンドにデュポンは貢献できそうだと考えています。一つは食糧の確保です。世界の人口は90億人くらいまで増えるだろうと言われていますが、どのように彼らの食糧を確保していくかという課題に対して、デュポンは、自分たちの化学を基にしたいろいろな技術を使って解決策を提供できないかと模索しています。
それから、二つ目のメガトレンドは化石燃料からの脱却です。二酸化炭素が増え、地球温暖化にならないよう、化石燃料から太陽光などにシフトしていく際、デュポンは提供できるものがあります。
三つ目は、比較的分かりにくいのですが、環境と人命保護(プロテクション)に取り組んでいます。これにはいろいろな意味があり、例えば、消防士が着る消防服、あるいは防弾チョッキなどがあります。これらが一番分かりやすいのですが、それ以外にも環境をどうやって保護するか、IPをどうやって保護するかなどに関して、デュポンの中に使える技術やアイデアがあるのではないか。保護は、メガトレンドとして案外これからも続くだろうと考えています。世の中には他にもメガトレンドがありますが、デュポンの技術が使える分野としては、この三つを選びました。
この三つをやっていこうと考えたとき、特に最初の食糧が入ると、ケミカルだけでは語れなくなってきます。突き詰めていくと、ケミカルカンパニーではなくなってしまいます。では、ケミカルに替わる言葉は何か。「サイエンス」ではないか。「サイエンスカンパニー」という方向性は、このような考えの下に決められたのです。
●社員たちは「100年分の大変化期」と理解している
田中 社員たちは、そのようなことを日頃から聞いていますから、自分たちがケミカルだけではなく、他の分野にも取り組まなくてはならないし、三つのメガトレンドに向かっていくために今後買収もするだろうし、必要のないビジネスは売却もするだろうということが、分かってはいるのです。
分かってはいるのですが、実際に買収や売却が発表されたら、内部ではやはりびっくりします。「このビジネスを売却するのですか?」「この事業を分社化するのですか?」「この企業をこれほど高い価格で買収するのですか?」といった驚きが、毎回あります。ですが、会社の方向性は分かっていますから、「確かにその判断が今必要なのだろう」というくらいの感覚で大方の社員は見ているだろうと思います。
大上 では、メガトレンドへの納得感が大きいから、インパクトの大きいアクションに対しても抵抗感がないということですか。
田中 「抵抗感がない」と言ったら大げさになります。「もったいない」といった感想はそれぞれありますし、抵抗感もあるけれども、「よく考えたら理解はできる」という感覚です。また、社員たちには、「大きなチェンジが行われている」という意識もあります。これからの会社は、このままの延長線上にはない。必ず変わるだろう。今変わったからこれで終わりでは...